ピーター・バラカンに聞く、キャット・パワーのボブ・ディラン再解釈を大絶賛する理由
ディランと『Cat Power Sings Dylan』が特別である理由
―そもそもピーターさんはディラン作品とはどのように出会ったんですか? バラカン:ビートルズがラジオでディランを熱心に薦めているのを聴いて興味を持ったのが最初です。双方が出会ったのは1964年のことなので、その頃の話だと思います。当時僕はまだ12歳だったんですけど、あまりにビートルズが褒めるものだから、父親にねだってアルバムを買ってもらったんです。最初に手に入れたのは2ndアルバムの『The Freewheelin’ Bob Dylan』でした。 ―初めて聴いてみて、どうでしたか? バラカン:そりゃあもう驚きました。それまでイギリスのポップなグループばっかり聴いていたのに、いきなりアクースティック・ギター一本の渋い弾き語りでしょ。当時のポップ・ミュージックの世界であんな歌い方をする人は一人もいませんでしたから。ウディ・ガスリーの存在なんてまだ全然知らないし、本物のブルーズにも触れる前だったから、とにかく衝撃でした。父親は、「せっかく金を出してやったのに、何だこの妙な歌は!」って怒っていましたけどね(笑)。僕はすぐにハマってしまって、それ以来新しいアルバムが出るごとに必ず買うようになりました。他にそんな存在はビートルズとローリング・ストーンズだけです。 ディランの曲は、歌詞の素晴らしさが語られることが多いけど、もちろんメロディーも素晴らしいんですよね。フォーク・ソングから拝借したすごくいいメロディーにあの言葉が乗るからこそ魅力的。まだ子供だから一部の政治的な歌の内容もちゃんと理解できていたわけじゃないんだけど、ライナー・ノーツを何度も読み返して、取り憑かれたように繰り返し聴いていました。 ―そう考えると、ご自身にとってそれほどまでに特別な存在であるボブ・ディランを丸々カヴァーした今作『キャット・パワー・シングス・ディラン』をピーターさんが大絶賛するというのは、改めて並々ならぬことですね。 バラカン:はっきり言って、『Cat Power Sings Dylan』は、オリジナルのディランのパフォーマンスに引けを取らないほどの力作だと感じるし、数十年経ってもこのアルバムの価値は薄れないと思います。繰り返しになりますけど、入念な意図のもとに企画されたものだったら、こんないい内容になっていないと思うし、そもそも、実現しようとも思わなかったはずですよね。やっぱり、たまたまアルバート・ホールでやることになったということが上手く作用しているように思います。その偶然もまた素晴らしいですね。 --- キャット・パワー 『Cat Power Sings Dylan: The 1966 Royal Albert Hall Concert』 発売中
Yuji Shibasaki