11人の家族の物語

映画『ゴーストバスターズ／フローズン・サマー』2024年3月29日（金）全国の映画館にて公開 配給：ソニー・ピクチャーズ

冒頭から、スペングラー一家がゴーストバスターズ専用車「ECTO-1(エクトワン)」に乗り込み、マンハッタンの街を走り回る。ゴースト捕獲のためなら、公共のルールなんかお構いなし。この荒唐無稽さ、ハチャメチャ感こそが、『ゴーストバスターズ』たる所以。 ミニマシュマロマンがやたら増殖して悪戯ばかりしているという設定は、『グレムリン』(1984)を思い起こさせるし、物体と霊魂を分離させるマシーンは、まるで『ザ・フライ』(1986)に登場する物質転送機のよう。おそらく製作者サイドも、かなり意識的に80年代的な意匠を持ち込んでいるのではないか。前作では中西部の田舎町を舞台に少年少女たちのジュブナイルが紡がれたが、再び舞台をニューヨークに戻すことで、80年代的なノリ(そして、多少のユルさ)が復活した。それはまさしくアイヴァン・ライトマン的なタッチといえる。 だが、物語の中心となるテーマは、あくまで家族だ。新生ゴーストバスターズの“頭脳”ともいえるフィービーは、ニューヨーク市長から目をつけられてしまったこともあり、メンバーから外されてしまう。母親のキャリー(キャリー・クーン)とゲイリー(ポール・ラッド)は、良きパートナーとして同じ屋根の下で暮らしているが、まだ結婚までにはいたっていない。『フローズン・サマー』は、フィービーが再びゴーストバスターズとして復帰できるか(＝家族として戻れるか)、そしてキャリーとゲイリーが本当の家族になれるかという、純正ファミリー・ドラマなのだ。 今回ジェイソン・ライトマンはプロデューサーに回り、『モンスター・ハウス』(2006)や『クリスマスとよばれた男の子』(2021)などを手がけてきた、ギル・キーナンが新しく監督を務めている。相当なプレッシャーだったことは想像に難くないが、大都会で繰り広げられるドタバタ・コメディというアイヴァン・ライトマン的モチーフと、家族の絆を取り戻していくヒューマン・ドラマというジェイソン・ライトマン的モチーフを組み合わせることで、偉大な父子フィルムメーカーのエッセンスを十二分に描き出している。 今回のゴーストバスターズは、とにかく大所帯だ。旧シリーズからピーター、レイ、ウィンストン、ジャニーン(アニー・ポッツ)の4人、新シリーズからフィービー、トレヴァー、ゲイリー、キャリー、ラッキー(セレステ・オコナー)、ポッドキャスト(ローガン・キム)、ラーズ(ジェームズ・エイキャスター)の7人で、合計11人。宮藤官九郎が脚本を手がけた「11人もいる！」(テレビ朝日系)というドラマが昔あったが、筆者も思わず「11人もいる！」と心の中で叫んでしまった。 マーベル・シネマティック・ユニバースは旧キャラを新キャラに代替わりさせて新陳代謝をはかっていたが、ゴーストバスターズは旧メンバーを残したまま、新しい仲間を迎えている。それは、ゴーストバスターズ自体がひとつの家族となっているからだろう。彼らはニューヨークの地に根を生やし、運命共同体として生きていく。「Who you gonna call? Ghostbusters！」と歌うレイ・パーカー・ジュニアの主題歌は、もはやお化け退治のスペシャリストを呼ぶためのパーティ・ソングではなく、家族を慈しむファミリー・ソングだ。 『アフターライフ』のラストには、2014年に亡くなったイゴン役のハロルド・ライミスをしのんで、「for HAROLD(ハロルドに捧ぐ)」という言葉が映し出された。そしてこの『フローズン・サマー』のラストには、2022年に75年の生涯を終えたアイヴァン・ライトマンをしのんで、「for IVAN(アイヴァンに捧ぐ)」という言葉が映し出される。 偉大なるフランチャイズ『ゴーストバスターズ』は、アメリカを代表するポップカルチャーのみならず、家族の物語として新たな伝説を刻み始めた。