千住真理子が兄妹共演 ヴァイオリンが人の声のように歌う午後
1975年1月、NHK「若い芽のコンサート」でNHK交響楽団と共演し、12歳でプロ・デビューしたヴァイオリンの千住真理子。デビュー50周年という大きな節目にあたる今年は記念プロジェクトがめじろ押しだ。2月には、活動40周年を迎えた作曲家の兄・千住明とともに「アニヴァーサリー・コンチェルト」を開く。 【画像】その他の写真 「兄が作・編曲したオーケストラ作品だけを弾いて、それを兄が指揮する。兄妹の共演は今までにもやっていますが、このようにがっちりふたりでというのは初めてのことです」 千住真理子自身がそう語る、この日だけのスペシャルなコンサート。 プログラムの軸は、2023年にリリースしたアルバム『アリア』の収録曲だ。《花から花へ》(椿姫)、《星はきらめき》(トスカ)、《誰も寝てはならぬ》(トゥーランドット)など、アルバム・タイトルどおり、有名なオペラ・アリアの数々を、ヴァイオリンとオーケストラのために編曲した。 「以前から兄は、『真理子はまるで人の声で歌うようにヴァイオリンを弾く』と言っていたんです。それで私にオペラ・アリアを弾かせようと、もともとは1999年のNHKのTV番組『ナポリに響くアリア』のために生まれたものです。 今回、ステージで兄とふたりで演奏できるのは本当にうれしくて、わくわくしています。私、やり直しのきかない一発勝負が大好きなんですよ(笑)。ぜひ聴いていただきたいです」 アルバムのライナーノーツに千住明が「原曲の魅力を崩すことのない編曲を目指した」と記しているように、メロディを素材にした器楽的なパラフレーズではなく、“歌”の魅力をシンプルに、しかしたっぷりと味わえるアレンジが心地よく響く。 「原曲を崩すことなく、しかし不思議と千住明サウンドが出ているんですね。すごく夢があって、でもちょっとせつないのが千住明サウンド。 兄も中学に入る頃までヴァイオリンを習っていたのですが、器用ではないけれども大人たちを泣かせるような演奏をする子供でした。 それが作品にも出ていると思うんです。私にはあの頃の印象が残っているから、兄の曲を弾くとき、ああいう音楽をさせたいんだなというのがわかります」 ヴァイオリンで歌うアリア。ヴァイオリニストにとって、演奏者の心がそのまま現れる“人の声”はうらやましい存在だという。 「私はオペラも大好きでよく聴くのですが、聴けば聴くほどうらやましい(笑)。 声独特の説得力ってありますよね。しゃべっていても、たとえば『ありがとう』と言うとき、それがどんな気持ちの『ありがとう』なのか、その声でわかります。声には感情が入っているから。 だから『ヴァイオリンってこういうふうに弾きたい』という理想が“人の声”の歌なんです。あの説得力をどうやってヴァイオリンで出せるか。 私たちヴァイオリニストは、指先とか、媒介するものがひとつ余計にあるので、いつもそれをなくしたいなと思って弾いています」 10代の頃の“お手本”は、2013年に他界した母・文子さんの“歌”だった。 「母が一緒に練習を見てくれたんですね。 小学生の頃から師事していた江藤俊哉先生のレッスンは、非常に短い言葉でぱっぱっとおっしゃるので、当時の私にはまだ理解ができないことがたくさんあって、自分の弾き方のどこが悪かったのかわからない。それを母がいつも客観的に見ていて、うちに帰ってから、先生の言葉を噛み砕いて伝えてくれるんです。 そのときに母が歌うんですよ。先生はこんなふうに弾きなさいとおっしゃったんだよと、本当にきれいな声で歌ってみせてくれる。 それがとても素敵で、私もそのとおりに弾きたいなと思うことが多くて。だから歌のように弾くようになったのかもしれません。 江藤先生ご自身も歌って教えてくださったので、私の心にあるヴァイオリンの音は、江藤先生の低い声と、母の高い声でできていると思います」 満を持しての兄妹フル共演。同じ環境に生まれ育った音楽家同士の作品と演奏とが、深いところで共鳴するのは間違いない。そして千住真理子が愛器ストラディヴァリウス“デュランティ”とともに歌う午後。共演は神奈川フィルハーモニー管弦楽団。 取材・文:宮本明 千住真理子デビュー50周年& 千住明デビュー40周年 アニヴァーサリー・コンチェルト 2月1日(土) 14:00開演 横浜みなとみらいホール