あまりにもわかりにくい「電場」を平易に解説…そもそも「電場」とは何なのか?
逆二乗則じゃないとブラウン管はなかった?!
繰り返しになるが、私たちが、電場の効果を目の当たりにすることはめったにない。液晶モニタが普及して失われたが、ブラウン管は、電場を意識する数少ない機会であった。 それではブラウン管内部では、どのように電場が制御されているのだろう。まず、静電場は電荷からしか発生しない。ブラウン管の中の電場は、それぞれの電極に正の電荷だけ、負の電荷だけを無理矢理集めて作っている。 電場は正電荷の周囲には放射状に外向きに発生する(図の1)。負電荷の周囲には同じく放射状に、しかし内向きに発生する(図の2)。そこで正電荷を平面に敷き詰めれば、平面に垂直な成分以外は打ち消しあってしまい、電場は平面に対して垂直に外向きになる(図の3)。反対に、負電荷を平面に敷き詰めれば、平面に対して垂直に内向きになる(図の4)。そこでこの2つの平面を近づけると、平面の間の電場は強めあうが外側の電場は打ち消しあってしまうので平面の間にだけ電場が存在するようになる(図の5)。 これがブラウン管で電子の軌道を曲げるために使われている極板間の電場の発生方法である。 ここでクーロンの法則から導かれる「逆二乗則だと静電気力が平面からの距離によらない」(『学び直し高校物理』Chapter9)が効いてくる。静電気力が同じだということは、とりもなおさず平面上に一様に分布した電荷が作る電場が平面からの距離によらない、ということである。 もし、クーロンの法則が逆二乗則ではない場合にはこれは成り立たないので、当然、電場の大きさも平面からの距離によって変わってくる。そうなると平面の外側の電場は打ち消しあってなくなる、というわけにはいかないし、電場の中を通り過ぎる電荷にかかる力も「平面間のどこを通るか?」で変わってしまうので、制御はとても難しくなる(次の図)。 つまるところ極論すれば「逆二乗則じゃなかったらブラウン管はなかったかもしれない」ということである。伊達に逆二乗則なわけじゃないのだ。 また、ブラウン管の内部は真空だった。空気中を電子が疾走するとすぐに空気中の分子に衝突して止まってしまうからだ。 逆に言うと、電場の効果で、電荷を帯びた物体が曲がりながら中を飛んでいる状態を見る機会も、空気中で呼吸するしか生きる術がない我々には非常に乏しいということになる。 これが力学分野に比べると電磁気学分野が縁遠く、わかりにくく感じられる原因のひとつだろう。電場が使われているわかりやすい状況なんて、それこそブラウン管以外には考えにくい。 おそらく、雷はその数少ない例外だろうが、あの光と音は絶縁破壊と言って、本来は絶縁体である空気の中を電流が強引に空気をプラズマ化しながら流れている状態なので、とても「電場に加速されて動く電子の典型的な状態」とはいえない。その意味でも、まさに電磁気学の原理そのものだったブラウン管が、身の回りからなくなってしまったことは物理学者としては悲しい限りだ。
田口 善弘(中央大学理工学部教授)