三田製麺所「たまごかけ麺」ヒットの真相 シンプル過ぎるのになぜ
「卵かけ麺」は麺マニアの間でひそかに人気を博してきた新しい麺ジャンルだ。「つけ麺専門店 三田製麺所」は、この新グルメを全国に広めようと2023年11月に、全国の41店舗で「たまごかけ麺」の提供を開始した。発売から1週間で5000食を突破したのち、ピークでは20%の来店客が注文しているという。新しい定番メニューとしての地位を築きつつある新グルメの商品開発ストーリーに迫った。 【関連画像】三田製麺所が提供している「たまごかけ麺」(税込み1000円)。上質な卵を2つも使用。麺の下には、卵白と特製だしが敷かれている 新感覚の麺ジャンル「卵かけ麺」の存在感が急上昇している。卵かけ麺とは、中華麺に卵と調味料(たれやだしなど)を絡めて食べる新しい麺ジャンルのことだ。ここ数年で卵かけ麺を提供する店舗が徐々に増えており、最近では大手食品メーカーも商品開発に乗り出している。 卵かけ麺の特徴は、中華麺と卵といった素材本来の味を楽しめる点にあると言えるだろう。卵かけ麺に使われている調味料は、中華麺や卵の味わいを引き立てることが大きな目的なので、控えめな味付けをされていることが多い。 実際に卵かけ麺を食してみると、卵へのこだわりもさることながら、これほどまでに中華麺のおいしさを感じられる食べ方があったのだろうかと、蒙(もう)を啓(ひら)かれた思いに至った。 「このおいしさを全国に広めたい」と、卵かけ麺に注力しているのが外食企業・エムピーキッチン(東京・渋谷)が展開している「つけ麺専門店 三田製麺所(以下、三田製麺所)」だ。08年に第1号店をオープンした三田製麺所は、現在、国内に41店舗を展開している。 ●「発売1週間で5000食」のスタートダッシュ 三田製麺所が卵かけ麺(商品名は『たまごかけ麺』)を発売したのは、23年11月のことだった。エムピーキッチンで広報部マネージャーを務める堀遼平氏は、全くの新商品ながら初動の勢いに手応えを感じていたと語る。 「発売から1週間で約5000食を売り上げた。これだけでも想像以上の手応えを感じていたが、発売からしばらくたってからも勢いは衰えず、ピーク時には(来店客数の)20%を超えるお客様が注文している」(堀氏) 三田製麺所では、新メニューの売り上げは月単位で全体の10%に到達することが成否の基準値の一つとされているという。卵かけ麺が新たな定番商品としての地位を築きつつあるというわけだ。 堀氏は、卵かけ麺を三田製麺所が商品化するにあたって開発段階から関わってきた。「三田製麺所の卵かけ麺は、商品開発部の部長が“感動の味わい”を目標に仕上げた逸品」と語る。 ●「卵かけご飯」からの連想に商機 三田製麺所のブランドアイデンティティーの一つは、その名称に表れているとおり「麺」に対するこだわりだ。麺の味わいを堪能できる卵かけ麺は、三田製麺所の強みが生きるはず――このようなひらめきが、商品開発が進められた背景にある。 ただ、新グルメが世間に定着するまでには時間がかかるものだ。ところが、三田製麺所は最初から全店同時に卵かけ麺の提供を開始した。 なぜ、こんなチャレンジに出たのか。思い切った決断の理由の一つには、既に世の中では「卵かけご飯」が人気を博していることがある。 新規性は注目を集めるきっかけにはなるが、よく知られたメニューとの共通点が皆無ではイメージが湧かない可能性がある。一方、卵かけ麺の味は、卵かけご飯から連想できるので、注文のハードルが下がるだろうという目算だ。 その上で、卵かけご飯と卵かけ麺は、イメージこそ似ているものの食べてみれば全く別物と分かる。「このギャップが感動につながると考えた。感動とは、想像を超えた価値を提供したときに生まれるもの」と堀氏は語る。