お酒と上手に付き合うには? 「減酒外来」医師が推奨する酒量の「見える化」
◆アプリによる自己管理サポートも
新しい職場や生活が始まり、お酒を酌み交わして親睦を深める機会もあるだろう。気候も温かくなり、ついぐいっと喉を潤したくなるが、適量を知って上手にお酒と付き合いたい。国は適切な飲酒方法や病気のリスクなどをまとめた指針を策定。専門家は飲酒量の可視化を推奨しており、飲酒習慣を記録するアプリの利用も広がっている。 「飲み過ぎてしまう人は、お酒の種類や量、飲んだときの状況、翌日の体の状態を記録してほしい」。全国初の「減酒外来」を2017年に設けた久里浜医療センター(神奈川県横須賀市)の湯本洋介医師(42)は、飲酒の傾向を知ることが大切だと指摘する。 目安にしたいのが「純アルコール量」だ。飲んだお酒の量とアルコール度数から計算するもので、求め方は摂取量(ミリリットル)×アルコール度数(%)÷100×0・8(アルコールの比重)。厚生労働省が2月に公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」によると、生活習慣病のリスクを高める1日の純アルコール量は、男性が40グラム以上、女性は20グラム以上としている。 「お酒は『五臓六腑(ろっぷ)に染み渡る』と言われるようにいろいろな臓器に入り込む。脳に影響する可能性もある」と湯本医師。厚労省のガイドラインでは、病気の発症リスクが上がる1日の純アルコール量は、大腸がんが男女とも20グラム以上、脳梗塞は男性40グラム以上、女性11グラム以上と示す。高血圧は少量でも発症の恐れが高まるという。 過度な飲酒は記憶をなくして財布など大切な物を落としたり、転倒して頭を打ったりするようなけがにもつながる。 では安全な飲み方とは-。湯本医師は、空腹時に濃いお酒を飲むと血中のアルコール濃度が急に高まり意識を失う危険があるため、飲む前にまずは食べ、薄いお酒から飲み始めることを勧める。 飲み過ぎを防ぐには、薄めのお酒を選ぶ▽飲酒前や飲酒中に食事を取る▽合間に水を飲む▽ゆっくり飲酒する-など、自分の飲み方のルールを決めておく。また、お酒を飲まない休肝日を週1回程度設け、趣味に当てるなどして過ごす。 もし飲酒の自己制御が難しく「やめたくてもやめられない」ならアルコール依存症の兆候で、湯本医師は早めの受診を呼びかける。 民間企業や自治体は飲酒量を記録するアプリを作り、自己管理をサポートする。大塚製薬は19年に無料アプリ「減酒にっき」をリリース。摂取量を低減させる薬の発売に合わせて開発し、今年2月時点で約33万人がダウンロードした。 お酒の種類と量を入力すると純アルコール量が自動計算され、1日の平均飲酒量▽目標に対する飲酒状況▽体重や血圧、肝機能といった健康面の変化▽服薬記録-などが分かる。利用者は「飲酒状況が『見える化』されることで摂取量を減らすことができた」などと効果を実感したという。 沖縄県は14年に「節酒カレンダーアプリ」(現在は改修を検討中)の運用を始めた。同県民のアルコール性肝疾患の死亡率は男女とも全国平均の約2倍で、節度ある飲酒を心がけてもらうのが目的。ダウンロード数は約13万7千件(今年1月時点)に上る。飲酒量を入力して自分の傾向を把握でき、飲み過ぎると注意喚起される。 「飲みニケーション」は対人関係の距離を縮め、職場の同僚や友人らとの連帯感を深めるのに役立つ面もある。湯本医師は「飲酒量が増えるほど病気のリスクやトラブルの頻度は増す。純アルコール量と飲み過ぎないための注意点を頭に入れ、楽しくお酒と付き合って」と話している。 (梅本邦明)