日本のトップ頭脳たちが受けた衝撃…「哲学」という言葉が誕生した「意外な背景」
「希哲学」という言葉を知っていますか
それでは西はなぜ「希哲学」の「希」を略して「哲学」としたのであろうか。その点に疑問をもたれる人もいるかもしれない。もっともな疑問だと思うが、残念ながら西はそれに関しては何も述べていない。忖度の域を出ないが、次のように考えられるかもしれない。ソクラテスはたしかに知を愛することの重要性を強調したが、哲学はその後、存在の本質や根本原理を探究する知の学として発展を遂げていった。それを表現するためには「哲学」の方がふさわしいと考えたのかもしれない。 「哲学」という訳語は、西が使い始めてから徐々にひろまり、定着していった。それを決定的にしたのは、一八七七(明治十)年に東京大学が設立された際、文学部に「史学、哲学及政治学科」が置かれたことであった。哲学用語の確定に寄与したのは井上哲次郎らによって編まれた『哲学字彙』(一八八一年)であるが、そこでは辞書自体の名前が示すように、philosophy は基本的には「哲学」と訳されている。しかし興味深いことに、「実践哲学」ではなく「実践理学」というように、「理学」という訳も併用されている。 ---------- さらに連載記事〈日本でもっとも有名な哲学者はどんな答えに辿りついたのか…私たちの価値観を揺るがす「圧巻の視点」〉では、日本哲学のことをより深く知るための重要ポイントを紹介しています。 ----------
藤田正勝