「中田英寿も本田圭佑も強かった」清水エスパルス・秋葉忠宏監督が目指す超攻撃的なサッカーに不可欠なもの
――それは、代表でのコーチ経験などから得られた考えですか。 「それもありますが、今のサッカーはフットボーラー×アスリートじゃないと勝てない時代になっているということです。世界ではスピードがない、高さがないなど、(チームの)フィジカルがないところは徹底的に狙われます。技術とフィジカルのふたつが噛み合った選手を11人以上揃えないと、世界一を狙うことも、一流の選手になることもできないですね」 監督には、独創的な指示で勝利だけを求める人がいれば、ファンを魅了するサッカーを実現して勝利に結びつけていくタイプもいる。 ――勝利に徹したサッカーがファンを魅了するとは限らず、魅力的なサッカーが必ずしも勝利に結びつかないのが難しいところですが、秋葉監督が志向するのはどちらに近いですか。 「ロマンを追い求めて、本来の目的である優勝、昇格ができないと、それは自分の自己満足になってしまいます。クラブはファン、サポーターをはじめ、スポンサー、スタッフ、行政などいろんな方に支えられています。自分の好き勝手にやって、『負けたから辞めるわ』じゃ、監督をやる資格はないと思っているので、リアリストになって目標達成しないといけない。 一方で、僕はフットボールが魅力的で楽しいからやり始めたので、ロマンも失いたくないんです。ロマンを求めて一年間走ることができれば、こんなに楽しいことはないですけど、現実はまったく甘くないですからね。ロマンチストとリアリストを両方うまく使分けていくのが理想ですね」 ――クラブや日本代表が結果を出すためには、何が必要だと思いますか? 「ひとつは、自分のスタイルで押しきるんじゃなく、いかに臨機応変に戦えるかだと思います。不変じゃなくて、可変システムですね。 ブラジルやスペインのようなスタイルに日本を押しつけたところで勝てっこないんですよ。歴史を積み重ねてきたうえで生まれたシステムを、(Jリーグが発足して)30年ぐらいの日本がやっても真似しただけで終わってしまう。 それよりも日本人の良さである賢さ、組織で動ける良さを活かしつつ、三笘(薫)のような特別な選手を輩出して戦うことができれば、世界でも十分に戦える。クラブも代表もカメレオンみたいに柔軟に戦える選手が揃えば、J1でリーグチャンピンになることはもちろん、日本代表がW杯で優勝することも可能だと僕は思っています」 ■Profile秋葉忠宏(あきばただひろ)1975年10月13日生まれ。市立船橋高卒業後、1994年にジェフユナイテッド市原(現ジェフユナイテッド千葉)入り。1995年、U-20日本代表としてFIFAワールドユース選手権(現U-20W杯)に出場。翌1996年には28年ぶりにアジア予選を突破し、アトランタ五輪にも出場した。1997年、アビスパ福岡に移籍。その後、国内クラブを渡り歩き、監督兼選手としてプレーしたSC相模原で2010年に現役を引退した。翌2011年から水戸ホーリーホックのヘッドコーチを務めたあと、ザスパクサツ群馬の監督、U-21日本代表コーチなどを歴任し、2023年に清水エスパルスのコーチに就任。同年4月から監督として指揮を執る。
佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun