“女性のソロ活”は自虐から個性へ 「しおりのなんとなく日常」の動画に感じるポジティブ思考
YouTubeにおいてトレンドのひとつとなっている女性のソロ活。10年代後半から徐々にカルチャーとして醸成され始め、コロナ禍の助けもあって広く市民権を獲得したYouTubeのなかでは比較的新しいジャンルだ。その中でも従来のソロ活動とは一線を画した世界観の動画で人気を博しているのが「しおりのなんとなく日常」である。 【写真】しおりが暮らす築40年の和室 段ボールテーブルで夕食を楽しむ ソロ活といえば、かつてはネガティブな意味合いを持って語られることが多かったが、近年は多様性の広がりやライフスタイルの変化によって、誰もが気軽にソロ活をすることができるようになっている。こうした流れの背景にあるのはメディアによる訴求が大きい。 たとえば、2012年から放送が始まり、現在も不定期で放送されている『孤独のグルメ』(テレビ東京系)がその代表だ。言ってしまえば、主演の松重豊が淡々と食事をするシーンを映しているだけの動画ではあるが、ソロ活の原点として現在も語り継がれている。このように従来はソロ活をするのは男性であるという固定観念があったが、10年代後半からは女性のソロ活も増加。 もともと、スマホひとつで撮影ができるYouTubeとソロ活は非常に相性が良く、誰もが気軽に参入しやすいという背景はあるものの、先述した男性がするものという価値観からしばらくは敬遠されていた。しかし、価値観の多様化から「サイボーグAD飯岡チャンネル」や「世界一のゆっけ」といった女性が一人で飲み食いをするチャンネルが増加し、その人目をはばからない自由なライフスタイルが多くの共感を呼ぶ。 そうしたインターネットでの女性のソロ活が増えていくなかで、『ワカコ酒』(BSテレ東)を始め、『忘却のサチコ』、『ソロ活女子のススメ』(ともにテレビ東京系)など、ソロ活をテーマにしたテレビ番組が相次いで放送され、現在は女性のソロ活はむしろポジティブな文脈で語られるようになっている。 これまでのソロ活といえば、どこか自虐的なところがあった。一人でなにかを楽しんでいる自分という存在を誰かに肯定してもらいたいという人間の欲求がそこには見え隠れしていたが、近年はその傾向は薄れてきており、ソロ活を肯定し自らのアイデンティティとして楽しんでいるYouTuberが増えてきている。 そうしたYouTuberのトレンドの一端を担っているのが「しおりのなんとなく日常」だ。「みなさ~ん。どうもこんにちは、しおりです」と気怠けな挨拶から始まる同チャンネル。「しおり」が国内外の美味しいグルメを独特な語り口調とゆるい編集で投稿しており、その独自のスタイルは大きな話題となっている。2024年4月19日現在までで33.9万人のチャンネル登録者を誇っており、急成長しているYouTuberだ。 彼女が注目を集めるきっかけとなったのが2022年3月に投稿された「築40年、隙間風が吹く古風な家に引っ越しました【宅飲み】」という動画だ。おなじみのまったりとしたBGMとともに、ナレーションが付け加えられたいわゆるVlog的な形ではあるが、YouTuberがよくあるタワマンではなく、築40年の和室の部屋に引っ越すという個性的な動画内容となっており、視聴者はその感性に多くの親しみを感じているようだ。 そして彼女のチャンネルが唯一無二たらしめている要素を感じられるのが、「【はしご酒】新宿から二駅!安くて楽しい高田馬場にて1人3軒飲み歩き」という動画である。高田馬場駅周辺で飲み屋をはしごする動画になっているのだが、本来であれば一人の若い女性が行くのを躊躇してしまうようなディープなお店を訪れている。 これまでのソロ活は落ち着いたトーンのものが多かったが、彼女のチャンネルは陽気なBGMに加えて、「鮮度もバツグンだ!」「Today`s strong point」といったポップなテロップを適度に使いながら、明るいソロ活を演出(いたって彼女は自然体だとは思うのだが)。そして、店員さんやとなりのお客さんと会話を積極的にする姿が、これまでの一人だけを楽しんでいたソロ活とは明確に異なっているところだ。和気あいあいとした飲みの場を楽しんでいる様子を見ているだけで、視聴者目線ではその明るさにポジティブなエネルギーをもらえる。 本来、一人で何かを楽しむというのは時代に左右されるのではなく、自由であるべきだ。「しおりのなんとなく日常」を見ていると、いかにも現代らしいソロ活のあり方を感じられるし、きっとソロ活に躊躇していた方へも勇気を与える動画になっているはず。今後は「しおりのなんとなく日常」のような、ソロ活をポジティブな文脈で発信するYouTuberが増えていくことだろう。
川崎龍也