藤井聡太、「八冠」254日目で七冠後退 タイトル23戦目で初の敗退「時間の問題だと思っていた」同学年のライバルに刺激、前を向く【叡王戦第5局】
将棋の藤井聡太叡王(21)=竜王・名人・王位・王座・棋王・王将・棋聖との八冠=が20日、甲府市の常磐ホテルで指された第9期叡王戦5番勝負第5局で挑戦者・伊藤匠七段(21)に156手で敗れ、自身の持つタイトル戦連覇記録が22期でストップ、昨年10月11日に王座を獲得して全八冠達成以来、254日目(八冠達成日と失冠日を含む)にして七冠へ後退した。伊藤七段は3度目のタイトル挑戦で初の獲得となった。持ち時間4時間(チェスクロック方式)を両者とも使い切り、一手60秒未満で指す1分将棋に入っていた。両者の公式戦対戦成績は藤井叡王の12勝3敗1持将棋(引き分け)となった。 最後は一手指すたびに、ため息にも近い声を漏らした。自玉には受けるすべがなく、相手玉を詰まさなければタイトルを失う。藤井叡王はそのすべがないことを覚悟しながら、わずかな可能性を求めて指し続けた。 初挑戦以来23度目のタイトル戦で、初めてシリーズ敗退を喫した。「それは時間の問題だと思っていたので、気にせずこれからもまた頑張っていきたい」。終局直後のインタビューで、それでも気落ちするそぶりもなくはっきりとした口調で話した。八冠獲得後に竜王、王将、棋王、名人の4タイトルを防衛し、全冠を保持した254日は、1996年に七冠王だった羽生善治現将棋連盟会長の168日を大きく超えた。その間のプレッシャーについて問われても「これまでのタイトル戦と同じようにやっていた」。過密日程や相手が次々と変わる難しさに押しつぶされたわけではないと話した。 振り駒で先手となった本局。狙い通り序盤で角を取り合う角換わりとなり、穴熊の堅陣にも組めた。「予定の指し方で、攻めは細いが、玉の遠さを生かす展開にできれば」とプラン通りにできた実感はあった。しかし、攻めに出た終盤、攻撃を続ける代わりに自陣に手を入れた手から囲いに迫る歩の突き捨てを入れられ「直前の局面は指せている(有利な)可能性もあると思ったが、甘いところがあったのかな」。思った通りの形勢にならなかった誤算を認めた。 初めてタイトルを奪われた相手が同学年の伊藤。ともにこれからの将棋界を担っていくライバルだけに「本当に実力を感じるところが多かった。私自身も実力を高めていけるように頑張らなければいけない」と大いに刺激になる。ただ、再び全冠を目指すかと問われ「全く考えてなく、実力をつけることが一番大事」。タイトルよりも大事なものを求めて将棋道をまい進する。
中日スポーツ