路上はまるでクラッシックカーの博物館 「庶民お断り」のハバナのタクシー
旧市街の中心部、大きなホテルの並ぶ目抜き通りには、キャデラックやフォードをはじめ、ロシア製のヴォルガやラーダまで、1940年代や50年代のクラシックカーがひっきりなしに路上を行き交う。まるで車の博物館のようでもあるが、多くは現役の観光タクシーだ。値段はだいたい1時間あたり20~25クック。日本円で2500円ほどだから日本のタクシーに比べればはるかに安い値段だが、一般市民たちにとっては月収に近い値段。とても手が出る額ではないので必然的に利用するのは外国人になる。こんなクラシックカーを筆頭に、観光客や富裕層が普段の移動に使うイエローキャブから、地元の人たちが通勤に使う乗合タクシーまで、キューバにはいくつかのタクシーがある。
黄昏時に街の様子を撮っていて、ふと気づいた。仕事帰りの人たちが路上で手を振り上げ、タクシーを捕まえるのに四苦八苦している。時々空車が止まると、何人もが運転手を囲んで交渉するが、値段が合わないのか、行き先が不便なのか、なかなか乗ることができない。乗車拒否ばかりで、完全な「売り手市場」だ。諦めて歩き出す人も少なくないが、そんな光景を横目に、ホテルの前には外国人向けのイエロータクシーやオート3輪が何台も客待ちで待機している。観光客はホテルから出て、タクシーに乗るのに列に並ぶ必要もない。ドライバーにとっては、小銭しか得られないローカル客相手よりも、何時間待っても外国人を乗せて5ドル10ドル稼いだ方がはるかに効率がいいのだろう。 まさに経済の二重構造だ。地元の人々と、外国人観光客の間に広がる大きな経済的隔たりを感じさせられたハバナの一夜だった。 (文・写真:高橋邦典 2017年2月撮影) ※この記事はフォトジャーナル<変貌する社会主義国キューバ>- 高橋邦典 第52回」の一部を抜粋したものです。