ブリヂストンが米アストロボティック社と月面探査車のタイヤを共同開発
宇宙事業を積極的に展開するブリヂストン
2024年11月1日、ブリヂストンは米国アストロボティック社と月面探査車両向けのタイヤ開発の協業契約を締結した。共同開発の金属製スポーク採用タイヤは、アストロボティック社の月面探査車「24U CubeRover」に装着される予定だ。 【写真】月面探査車のタイヤをもっと見る ブリヂストンは2019年からトヨタの有人与圧ローバ用にタイヤの研究・開発を開始し、これまでに第1世代と第2世代のタイヤコンセプトモデルを開発し、地上走行試験やシミュレーションを重ねてきた。 ブリヂストンによると、月面探査車用タイヤには、月面という極限の環境下で月面探査車の安心安全を支えるため、3つの特長が求められるという。 【月面タイヤに求められる3つの特長】 1.空気を使わずに支えるタイヤ 月面は真空であり、通常のゴム製タイヤのように空気で荷重を支えることが困難な環境ゆえに空気入りでないタイヤでなくてはならない。 2.激しい気温差や放射線に耐えられる金属製タイヤ 月には大気がないため宇宙線と呼ばれる高エネルギー放射線に曝され、また温度も120℃から-170℃になる。ゴムや樹脂では、月面環境では硬さが大きく変化してしまううえに劣化が早く使用が困難なため、金属製がふさわしい。 3.砂地でも沈み込まずに走行できるタイヤ 月面はレゴリスと呼ばれる微細な砂で覆われており、走行時にタイヤが沈んで埋もれてしまう可能性があるため、接地面を大きく確保する必要がある。 第1世代では、ラクダのふっくらとした足裏から着想を得て、金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置することで、月面の砂(レゴリス)との間の摩擦力を高めたコイルスプリング構造のタイヤを開発した。 第2世代では第1世代の知見をもとに骨格構造を刷新して、空気充填がいらない次世代タイヤ「AirFree」で培ってきた技術を活かして新たに薄い金属製スポークを採用。トレッド部を回転方向に分割したことで、岩や砂に覆われまた真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる極限の月面環境下においても、走破性と耐久性の高次元での両立を目指している。 一方、今回協業を発表したアストロボティック社は、6種類の月面探査車開発やNASAからのローバー技術契約37件受託など、17年間にわたる月面探査車の開発実績があるメーカーだ。 ブリヂストンと共同開発するタイヤは、アストロボティック社が開発中の中型ローバー「24U CubeRover(トゥエンティーフォー ユー キューブローバー)」に搭載予定。「24U CubeRover」は優れたハンドリング性能やサスペンション、長距離通信機能を兼ね備え、月面における科学調査機器とペイロードの移動手段となるほか、電力、通信も提供するという。 近い将来、アストロボティック社とブリヂストンは月面への打ち上げおよび宇宙での熱環境におけるタイヤの耐久性も確認する予定ということなので続報に期待したい。