スポーツ産業政策の新しい価値 びわこ成蹊スポーツ大・吉倉秀和准教授 スポーツが未来を変える
2015年のスポーツ庁設立からまもなく10年、東京五輪から3年が経過し、国内スポーツ産業は次のフェーズを迎えようとしている。プロスポーツでは、バスケットボールのBリーグやバレーボールのSVリーグにおける新しいプロクラブがさまざまな地域のアイコンやスポーツエンターテインメント産業として確立を図り、トップアスリートが多くの競技でグローバル市場において、目覚ましい活躍を見せ、観戦型スポーツ市場が拡大傾向にあることは間違いない。 スポーツ庁の試算では、国内スポーツ産業市場は右肩上がりに成長をみせているものの、他産業との経済規模を比較した場合、話題に対する社会的インパクトやプレゼンスとは裏腹に実際に流通する経済規模は小さく、国内基幹産業の一つを目指すという大目標の達成にはまだ道半ばである。 さらなる成長を遂げるために必要なスポーツ産業政策の新機軸は何か。例えば、経済産業省とスポーツ庁によるスタジアム・アリーナ改革では、この10年間で各都市におけるスタジアムやアリーナの新設や改修により、地域におけるシンボルともいえる施設が格段に増加した。民間企業によるスポーツ事業の新規参入や民設民営によるスポーツ施設も増加し、スポーツの成長産業化に一定の貢献を果たした。 部活動の地域展開においては、学校部活動の重要性を理解しながらも、民間企業や民間資金、大学といった地域資源を活用しながら子どもたちのスポーツ環境を整えなければ持続可能なモデルを構築できないことは明白である。各自治体の教育関連予算だけに頼らない地域スポーツの産業化をどう目指すのか、さらなる検討や実証などが必要となっている。 また、世界におけるスポーツ産業の潮流として、海外スポーツベッティングなどスポーツデータを用いたコンテンツについて、既に賭けの対象となってしまっている国内競技団体における海外民間事業者への対応や、その結果を起因とするSNS(交流サイト)を通じたトップアスリートへの誹謗(ひぼう)中傷などへの保護対策は早急に取り組まねばならない。本件をはじめ、国内スポーツ産業は想定以上にグローバル市場とのつながりが構築されている(されてしまっている)ことを認識しておくことは重要である。 産業政策全般に求められることは、消費者にとって新しい価値を創造、提供するためのシステムづくりが肝要である。スポーツ産業においても、スポーツプロダクトの特異性を理解しながらスポーツイベントの参加者や観戦者の体験価値を高めるための取り組みやエンゲージメントの向上による新規ファンの獲得、そして、スポーツに関わるすべての企業や事業者は、社会性の課題を解決しながら、世の中に貢献する事業で収益を拡大させる新しいエコシステムを構築する必要があるという共通認識を前提に、日々取り組んでいかなければならない。