劇場版最新作がついに公開!世界中の子どもたちを魅了する「パウ・パトロール」はなぜ北米で大ヒットを記録したのか
「パウっと解決!パウフェクト!」を合言葉に、リーダーのケントと個性豊かな子犬たちからなるチーム「パウ・パトロール」が大活躍する人気アニメシリーズの劇場版最新作『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』が、12月15日に日本公開を迎えた。 【写真を見る】個性的で愛らしい子犬たちが“パウっと”奮闘!大人も子どももすっかり虜に 今年9月に公開された北米では、公開初日からの週末3日間で興行収入2276万ドルを記録した本作。2021年に公開された前作『パウ・パトロール ザ・ムービー』(21)対比175%の大ヒットスタートを飾り、幼児向けアニメでありながらも目の肥えた批評家や大人の観客からも高評価を獲得。なぜ“パウパト”はここまで人気を集め、劇場版が大ヒットとなったのか。本稿ではその理由を紐解いていこう。 本作の舞台は大都市アドベンチャー・シティ。ある日まほうの隕石が落ちてきて、そこから新しいマイティパワーを与えられたパウ・パトロールたちは最強の子犬“マイティ・パウ・パトロール”に大変身。しかし宿敵のライバール市長がマッドサイエンティストのヴィクトリア・バンスと手を組み、マイティパワーを奪おうと悪だくみ。ケントとパウ・パトロールたちは、マイティパワーで街に訪れるピンチに立ち向かっていく。 ■玩具からアニメまで、世界中の子どもたちを魅了する「パウパト」とは 2013年から幼児、児童向け番組専門チャンネル「ニコロデオン」で放送がスタートしたテレビアニメ「パウ・パトロール」。カナダの玩具メーカー「スピン・マスター」のアニメーション事業「スピン・マスター・エンタテインメント」が制作するアニメシリーズは、2010年代後半の北米圏の幼児たちに最も視聴されている番組としても知られており、「パウ・パトロール」はその人気の火付け役。現在では世界170か国以上、約3億5000万世帯で視聴されている。 その人気はアニメ作品だけにとどまらず、「スピン・マスター」のメイン事業である玩具ビジネスにも波及。アニメ放送の直後から幼児を育てるアメリカ中の親たちから問い合わせが殺到したとも言われており、翌年の2014年になってようやく玩具シリーズが発売されるとたちまち爆発的な人気を獲得。 2015年には「スピン・マスター」製品の全売上の25%を「パウ・パトロール」の関連商品が占めるほどの人気となり、全世界での総売り上げは80億ドル以上。市場調査会社NPDグループの調査によれば、アメリカとイギリスでは2016年以降継続して幼児向け玩具の売上トップに立ち続けており、2019年にはオーストラリア、メキシコ、カナダ、スペイン、フランス、イタリアでもNo. 1になったとか。 日本と同様、ペットといえば“犬派”か“猫派”かで二分され、両者がデッドヒートを繰り広げているアメリカ。それでも愛らしい犬のキャラクターが安定して人気を博すというのはディズニーのプルートや「ピーナッツ」のスヌーピーから「クレヨンしんちゃん」のシロまで、昔もいまも変わらず万国共通だ。しかも、それが子犬であれば尚更だ。 ジャーマンシェパードのチェイス、ダルメシアンのマーシャル、ブルドッグのラブル、ミックス犬のロッキー、ラブラドール・レトリバーのズーマ、そして紅一点であるコッカースパニエルとプードルのミックス犬のスカイ。本作に登場する6匹の子犬たちはそれぞれ違った個性を持ち合わせており、テレビアニメのシーズン2以降も新たなキャラクターが続々登場してきた。そのなかに誰か1匹は共感できるキャラクターがいること、そしてターゲットの性別を問わないというのも、本作を成功に導いた重要なポイントだったといえよう。 ■“子ども向け”であることは大きな強みになる! テレビアニメは今年で放送開始10周年を迎え、すでに北米ではシーズン10まで放送されている。スペシャルエピソードや短編作品も数多く制作されており、初の劇場用作品となった先述の『パウ・パトロール ザ・ムービー』は北米興収4000万ドル以上を記録。コロナ禍の余波が少なからず残っているタイミングだったとはいえ、2600万ドルの制作費の回収に成功し、全世界興収は1億4400万ドルを記録。とりわけドイツ、イギリス、フランス、中国で大ヒットを記録した。 北米のアニメーション映画界では近年、特に大きな変化が見られはじめている。コロナ禍に突入した当初、“映画館離れ”と“配信サービスの台頭”の影響を真っ先に受けたのが幼児、児童を含む若年層の子どもたちをターゲットにしたアニメ作品。『トロールズ ミュージック★パワー』(20)が即座にPVOD配信に踏み切り大成功を収め、同ジャンルを牽引するディズニーも多くの作品を自社の配信サービスでの公開にシフトし、数年が経った現在も劇場公開作が興行的苦戦を強いられることが頻繁に起きている。 また、そうした興行的に伸び悩む作品の傾向として、子ども向けであることに振り切らずに大人のノスタルジーを刺激する、よくいえば“全年齢向け”をねらった作風が挙げられるだろう。一昔前までは“子ども向け”と考えられ侮られがちだったアニメーションが、大人でも楽しめるコンテンツになったことは非常に大きな価値がある反面、その分“棲み分け”は重要となってくる。 そのなかで「怪盗グルー」シリーズをはじめとしたイルミネーション・エンターテインメント作品や、大人のノスタルジーと子どもでも受け入れやすい娯楽を絶妙に共存させた『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(23)が大ヒットとなったのは、子どもが観ることも念頭において、もしくは最優先に考えて作られていたからであろう。 幼い子どもが観たがれば、自ずと保護者も映画館に同伴する。仮に配信で手軽に観ることができたとしても、映画館での鑑賞が文化として根付いた北米では選択肢のなかから映画館はそう簡単に外れることはなく、息の長い興行が見込める。比較的安価な制作費であれば収益も黒字になりやすく、さらに次の作品へと繋がり、コンテンツ自体の人気も持続し、次の世代にも広まるきっかけが生まれる。 コンテンツとしての強さを10年かけて確たるものにしてきた「パウ・パトロール」は、まさにその最たる例。今作『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』では、制作費3000万ドルを瞬く間に回収。北米では2か月ほどの上映期間で興収6523万ドルに到達し、全世界興収では2億ドルに迫るほど。これは幼児向けカートゥーンアニメの劇場版としては「スポンジ・ボブ」シリーズや『ラグラッツ・ムービー』(98)を凌駕する、10年に1度の大成功だ。一人ひとりが観る期間は決して長くないにもかかわらず、意外なほど入れ替わりの少ないのが幼児向けコンテンツの特徴。今後も世界的に見れば“パウパト”の時代は続いていくことだろう。 ちなみにここ日本では、2019年からテレビ東京系6局ネットでテレビアニメシリーズが放送されており、各種配信サービスでも視聴可能。前作『パウ・パトロール ザ・ムービー』は日本上陸からわずか2年での公開でありながら、週末動員ランキングでトップテン入りを果たした。あれからさらに2年。日本の子どもたちにも着実に浸透してきたなかで公開を迎えた最新作は、どんな反応を集めるのか。いま世界中の子どもたちになにが流行っているのか気になった大人たちも、是非とも映画館に足を運んで“パウパト”たちの虜になってみてはいかがだろうか。 文/久保田 和馬