【連載】プロクラブのすすめ⑫ 山谷拓志社長[ラグビー・静岡ブルーレヴズ]ふたりの上昇請負人
日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛け、ひいてはリーグワンについて、山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。 12回目となる今回は、アメフトやバスケで培った、チーム力を高めるための考え方を語ってもらった。(取材日10月31日) ――キャプテンのクワッガ・スミスがW杯優勝メンバーになりました。 4年前のW杯の決勝ではメンバーに入れませんでしたけど、今大会は試合に出られて、しかも終盤のピンチの場面でターンオーバーしてチームを救った。あれだけオールブラックスが勢いづいていた時間帯で、ターンオーバー3つです。 出場時間は毎試合約20分と限られた中でも、ターンオーバーの回数は大会を通じて1位。かなり効果的な活躍をしていたと思います。そんな選手がわれわれのチームの一員であることは、本当に誇らしいことです。 クワッガはW杯の時でもブルーレヴズのことを気にかけてくれていました。南アフリカとトンガの試合では、試合後に僕が手を振ったら気づいてくれて。そのあとLINEで(トンガ代表で今季加入のチャールズ)ピウタウとの2ショット写真も送ってくれました。クラブのPRにぜひ使ってくれと。 チームとしてしっかりお祝いをしたいですし、そういう選手がいるということを静岡県内にしっかりPRしていきたいですね。 もちろんクワッガに限らず、W杯を戦ったピウタウ、藤井さん(雄一郎監督)、(長谷川)慎さん、吉水さん(奈翁・通訳)も。 今季の開幕前には、コロナが明けたこともあり、自治体の方やスポンサーの方、総勢200~300名をお招きしたキックオフパーティーを開催しようと思っています。そこでも5人の活躍を労いたい。チャンピオンチームのメンバーがいることも伝えていきたいです。 日程があえばクワッガの記者会見であったり、知事への表敬訪問であったり、ステークホルダーの皆さまへ優勝報告ができたらと思っています。内内でお祝いするのはもちろんですが、対外的にも彼が自分を誇らしく思えるようなシーンを作りたいですね。 ――山谷さんが現地観戦で感じたこと、レヴズでも活かせると思ったことは。 日本×サモア、ニュージーランド×イタリア、南アフリカ×トンガの3試合を見てきました。 演出に関しては、そこまで凝ったものはなかった印象です。というのもメインディッシュ(試合そのもの)がめちゃくちゃ美味しいので、味付けしなくていいんですよね。素材だけで十分楽しめる。 レベルの高いガチンコの戦いの素晴らしさを体感しましたし、6万の観客の盛り上がりそのものがエンターテインメントでした。みんなでウェーブをしたり、歌を歌ったり。 われわれクラブとしては勝っても負けてもお客さんを楽しませなければいけないので、W杯とは違い演出で楽しませることも大事なのですが、ラグビーそのもので楽しめる状態というのは究極の目指す姿ではありますよね。 あとは、日本にも歌があるといいなと思いました。日本は「ニッポンチャチャチャ」しかかけ声がない。 ブルーレヴズにも、阪神タイガースの「六甲おろし」のように、勝った試合後やハーフタイムにみんなで歌って盛り上がるお約束のものがあればいいなと。静岡県歌とか、いろいろ聴いているところです。 ――サモア戦では、富士山ヘッドを被った姿が映像で抜かれていました。 (お笑い芸人の)しんやさんが目の前に座っていたこともありましたが、(映るのは)狙い通りでした。なにか爪痕を残さないと、とは思っていたので(笑)。トンガと南アフリカの試合では、富士山ヘッドだけではなくて、レヴズのジャージーも着ていきました。 ――ホスト開幕まで1か月半ほど。チケットの売れ行きは。 一般販売も昨日(10月30日)から始まりましたが、やはり例年より反応が良いです。W杯でラグビーの注目度が上がっていると感じます。 W杯で関心を持ってくれた方にきちんとアプローチしていきたいです。われわれのチームのプロモーションだけではなくて、相手チームが例えばサントリーであれば、コルビ選手が来ますし、神戸とのホスト開幕戦では世界最優秀選手のアーディー・サベア選手が来ます。クワッガとのNO8対決も見られる。 そうしたことをうまくプロモーションできれば、ラグビーに関心の薄い方でも、きっと興味を示してくれる。W杯で起きた出来事に、われわれがしっかりアジャストすることが大事だなと感じています。 ――グッズで考えていることは。 クワッガの活躍を、旬なうちに取り上げようと話しています。W杯での写真は権利上難しいのですが、そこは知恵の出しどころです。ピウタウのグッズについては、もうまもなく発表できると思います。 100キャップに到達したり、何かの記録を達成したり、スポーツはいろんなことが起きる。そうした「何かが起きた瞬間(モーメント)」に反応するアジリティはすごく大事です。それをSNSのコンテンツやグッズに活かしていく。 日本ラグビー界では、例えば優勝してもその日にチャンピオングッズは売っていないですよね。両チームが作らないといけないリスクこそありますが、他のスポーツでは当たり前の動きだったりします。