“高度化”する漫画に感じた息苦しさ…元講談社の敏腕編集者が、Webtoonに見出した突破口
型が決まっているWebtoonだからこそ、作家性を最大限に引き出す
――Webtoonに参入する企業が相次ぐなかで、「STUDIO ZOON」にジョインされた決め手は何だったのでしょうか。 コンテンツ事業って、一般的なビジネスの感覚で考えるとおかしいことだらけなんですよ。作品を完成させたりクリエイターを育てるには、相当の技術と時間とコストを費やしますが、打率は決して高くないし不確実性も高い。たとえば漫画編集者だったら「新卒入社して10年以内にモノになるといいな」くらいの感覚です。時間軸含めて、なにもかもが違うので、ビジネス的に合理的なだけだとコンテンツ事業ってうまくいかないんです。合理性を超えた本気度が必要になる。 Webtoon業界に飛び込むにあたり、その企業がどこまでコンテンツ事業に対して本気なのか、どれくらいの時間軸で、どのくらいのコストを覚悟しているのか……この辺りを重視していました。そんな中でサイバーエージェントはコンテンツ企業として生まれ変わろうとしているし、近年の実績を見てもその本気度を感じました。 それでZOONの事業責任者に会ってみたんですが、胡散臭い見た目の割に、ドリーミーでピュアだったんですよね(笑)。ビジネス感覚はもちろんですが、そういったドリーミーさやピュアな想いって、コンテンツづくりには絶対に必要です。そんなところにも惹かれつつ、ゼロから新規事業をつくれるタイミングだったことにも魅力を感じ、ジョインしました。 ――入社から約1年が経ち、『敗戦の剣士、勇者の子と暮らす』『頂点捕食者』『ツイタイ』など続々とWebtoon連載を立ち上げられています。村松さんが感じる「STUDIO ZOON」らしさはどんなところだと思いますか。 作家さんとの付き合いが濃いところでしょうか。打ち合わせではとにかく作家さんを深掘りします。作家さんが大事にされているポイント、実際に描いたら輝くポイント……そういう作家さんのコアをWebtoon市場とガッツリ掛け合わせるといいますか、マーケットインかプロダクトアウトかのどちらかだけにならず、“幸福な掛け算”になるように心掛けています。 ――Webtoon制作は効率化を重視し、分業制の採用も多いと聞きます。関わっているクリエイターと「丁寧な打ち合わせを重ねる」ことは、その流れに逆行するようにも感じますが、その選択をされた理由はなんでしょうか。 誤解のないように言いますと、分業制のスタジオでも、もちろん丁寧な打ち合わせはされていると思います。僕ら自身、作品によっては関わる人数が増えて分業制に近い形になることもあるので、分業制自体はまったく否定していません。が、作品作りに関わっている一人ひとりが「自分は与えられた作業をやっているだけ」という思いを抱えることなく、あくまで自分の作品として取り組んでもらえるようには気をつけています。そのために丁寧に各作家さんと打ち合わせをしている、という感覚です。 ――なぜ一人ひとりに「自分の作品として取り組んでもらいたい」のでしょうか。 単純にそのほうがいい作品ができると思っているからです。 これはいつも言っていることなのですが「これでいい」と「これがいい」は違うんですよね。たとえば現状のWebtoonは、ランキング上位に入らないと読んでもらいにくい。となると、ランキング上位作品と似た体裁にして「正解にキッチリ合わせたんで、これでいいよね?」というだけの作品になりがちなんです。そうすることで最初は上位にランクインすることもありますが、やっぱり独自の魅力がないと、あっという間に落ちていきます。 上位を維持するヒット作は、流行りの型に合わせているものの、「これでいい」だけじゃない「これがいい」が確実にある。僕はたい焼きをよく喩えに出すんですが、キッチリとたい焼きの型に合わせて焼き上げることも大事だけど、型からはみ出したパリパリの部分……あれがとても重要なんだよな、と。 ――たい焼きの本体が「これでいい」で、はみ出した皮が「これがいい」だと。 そうですね。漫画とWebtoonだと読者の姿勢に違いがあって、漫画の場合はたくさんの中から自分が好きな作品を積極的に探しに行くので、一見してほかと“違う”ことが重要ですが、Webtoonの場合は通勤電車の中で何気なくスマホを開きパッと目についた作品を読み始めるので、一見してほかと”違わない”ことが重要なんです。 そういう意味で、Webtoonはやはり型に合わせることはとても重要。でも何気なく読み始めた読者が、その後、何に魅了されていくのかといったら、作品独自のはみ出した部分なんですよね。そして、そのはみ出した部分は作家性からしか生まれない。その作家性を引き出すために、各作家さんと丁寧に打ち合わせをして、関わっている全員が自分の作品として取り組んでもらえるよう努力している…そんな感じですね。 ――Webtoonに興味を持たれている方も多いと思いますが、Webtoonに向いている人と、そうでない人の特徴はありますか。 自分の体験や、自分が描きたいテーマしか描けない方は漫画を描くべきだと思います。漫画はバラエティ豊かなので、作家さんの描きたいものに共感してくれる読者が必ず一定数はいる世界です。 一方で、とにかく自分の作品を読まれたい人。読者に喜ばれたい、読者を楽しませたい、それが自分の創作の喜びでもある!そういう気持ちが強い人はWebtoonをやると面白いと思います。 ――村松さんはすでにnoteなどでWebtoonの知見をたくさん発信されていますが、「NEXT」ではどんなワークショップを実施する予定なのでしょうか。 作品の準備期間中は余裕があったのでnoteで積極的に発信していたんですが、まだ作品を世に出せていなかったから仮説も多かったんですよね。いまは作品が世に出て、そのリアクションもいただいているところなので、Webtoonに対する解像度は当時の20倍くらいあります(笑) 新しくお伝えできることもたくさんあるとは思っていますが、Webtoonのつくり方うんぬんみたいな話よりも、「自分がやるならば、どんな作品をつくっていったら面白いか?」という話を、膝を突き合わせてフラットにできたらいいなと。きっとこの「NEXT」で僕自身も勉強になることがたくさんあると思うので、ぜひ一緒に勉強しましょう!
文:ちゃんめい