未来照らす熱演 3兄弟堂々、紡ぐ伝統の檜枝岐歌舞伎
福島民友新聞創刊130周年プレ記念事業として18日に福島市で開催された「檜枝岐歌舞伎福島公演」。伝統を引き継ぐ親子が熱演を披露したほか、会場では檜枝岐歌舞伎の魅力や奥会津の特産品をPRするブースなどが設けられ、多くの来場者でにぎわった。 約280年もの歴史を紡ぐ檜枝岐村の檜枝岐歌舞伎を継承する3兄弟の子どもたちが大舞台で躍動した。「へい、へいへいへい。かしこまってござります」。伝承団体「千葉之家花駒座」の座員を家族代々で務め、8代目に当たる平野大夢(ひろむ)さん(12)、翔さん(8)、尊(たける)さん(6)の3人は7代目の父大地さん(39)と共に堂々とした立ち振る舞いを見せた。 3人が演じたのは、木に縛られた静御前を奪おうとする悪役「逸見(はやみ)の藤太(とうた)」の家来たち。逸見の藤太役の大地さんに続いて壇上に登場すると、客席からは拍手喝采、終演後にはおひねりが飛んだ。「緊張したけれど、手足の動きに注意しながらはっきりと大きな声を出すことができた」。大夢さんらは普段とは異なる舞台で大役を務めた。 大夢さんが歌舞伎を始めたのは3歳の頃。大地さんの練習に付いていき「自分もやりたい」と歌舞伎の世界に入り込んだ。弟2人も兄の背中を追いかけて2年ほど前から座の一員に加わり、3兄弟は一座に愛される存在として歌舞伎文化を引き継いできた。 舞台を降りれば普通の村民に戻り、3人は下校後、夕食を済ませてから2時間ほど稽古に汗を流す。3月の平日はほぼ毎日練習に費やし、大夢さんは「大変だけど演じるのが楽しい」と充実感をにじませる。 3兄弟にはすでに根強いファンもいる。この日会場を訪れた福島市の教員阿部美咲さん(31)は大夢さんの小学校低学年時代の担任。檜枝岐を離れてからも観劇のため母と一緒にほぼ毎年村を訪れているといい「福島で雄姿を見ることができてうれしい。今後の成長も楽しみ」と目を細めた。 人口減少などの影響で少しずつ座員が減る中、3兄弟の躍動は一座の未来を照らす。今月に村内で行われた公演では、父と祖母のあさのさん(69)と3世代の共演も果たし、活動の場を広げる。大夢さんは「檜枝岐歌舞伎の歴史はこれからも続いていく。自分も花駒座の一員として、大人になっても歌舞伎を続けていきたい」と将来を思い描き、目を輝かせた。(多勢ひかる)
「義経千本桜 鳥居前の場」あらすじ
源義経が兄頼朝に追われて都を落ち、家来の武蔵坊弁慶と大物ケ浦へ向かう途中の物語。義経を慕う静御前は一緒に付いていきたいと頼み込むが聞き入れられず、キツネの皮を張った鼓とともに木に縛られてしまう。その後、追っ手の逸見(はやみ)の藤太(とうた)らが静御前と鼓を奪おうとするが、義経の家来の一人、佐藤忠信が駆け付け敵を追い払う。義経はこの功績をたたえ、忠信に褒美の品と自身の姓名を譲り、万が一の際に身代わりになってくれと静御前を託した。歌舞伎内で忠信はキツネの化身として描かれる。鼓は忠信の親ギツネの皮で作られていたため、忠信はこの鼓のあるところを歩いていたのだった。
福島民友新聞