VRで熟練の技術継承 AI活用した学習システムを出雲市やJAなどが開発
島根県出雲市などが新規就農者向けに開発した、仮想現実(VR)技術を活用したブドウ栽培の学習システムが、産地の人材育成に成果を上げている。就農5年以内のブドウ農家約10人を対象に同市の施設で2021年に訓練したところ、「デラウェア」の秀品率が訓練前の22%から訓練後は36%に向上。県内の農林高校の講義などでも活用し、次世代への技術継承や加温ブドウの産地維持につなげたい考えだ。 【動画】VR技術を活用したブドウ栽培の学習システム
摘粒の知識“採点”
同システムは地域のベテラン農家の技術を人工知能(AI)に学習させ、経験が少ない新規就農者や雇用者らへ継承するため、農研機構、県、JAしまね出雲地区本部や出雲市などが共同開発した。専用のVRゴーグルを使って、ブドウを栽培しない時期などに訓練し、早期習得が難しい摘粒、摘房、剪定(せんてい)技術を高める狙いだ。 VRゴーグルとパソコンをつなぎ、摘粒、摘房、剪定の手順などを学ぶ。VR空間にブドウ園を映し出し、学習モードと実践モードで各作業を訓練する。 摘粒の学習モードでは、生育粒が小さいなどで間引くべき粒が黄色に表示され、学習者はガイドに従ってコントローラーを使って作業する。実践モードでは、学習した技術を基に自ら摘粒すべき粒を判断する。正しく摘粒できたか、100点満点で採点。出荷規格も判定され、知識と経験を得られる。
「作業感覚磨ける」
出雲市でブドウを2ヘクタール栽培する大社観光ぶどう園は今年5月、「シャインマスカット」の摘粒前に活用し、雇用者4人の技術習得に役立てた。伊藤康浩代表は「口頭では伝わりにくかった作業感覚を磨ける。最初の不安も減り、やるとやらないとでは大きく違う」と魅力を話した。 同市の県立出雲農林高校や大田市の県立農林大学校の研修でも21年度から活用を始めた。出雲市農業振興課は「最新技術を積極的に活用し、歴史あるブドウ産地を守っていきたい」と意気込む。(西野大暉)
日本農業新聞