<見せろ!魂・和歌山東の軌跡>/上 新チームに危機感 新人戦での大敗、後の快進撃へ /和歌山
「何から手を付けようか」――。新チーム発足にあたり、和歌山東の米原寿秀監督(47)は悩んでいた。昨夏の選手権和歌山大会、チームはベスト4入り。しかし、ベンチ入り選手で新チームでも残るのは5人だけだった。「全てにおいて戦力ダウン。しっかりしていた3年生が抜け、2年生はおとなしい存在だ」と感じていた。センバツ初出場を目指すチームの出発は、不安材料が多かった。 此上平羅主将(2年)も「統一感がなく、バラバラなチーム」に危機感を覚えていた。「一つの行動をとってみても、走るやつもいれば歩くやつもいる。練習試合でもみんな個人プレーに走る。皆違った方向を向いていた」と振り返る。訳があった。「ずっと先輩を頼り、いざ自分たちの代となったとき、どう動いていいか分からなかった」と岡田大志副主将(2年)は言う。 米原監督は逆転の発想をした。「強みも何もないのがよかった」。実力、精神的に自然とチームの中心となるような選手はいないが、「特定の誰かに助けを求めることのないように、一人一人に役割を与えよう」と考えた。「『甲子園に行きたい』と言うなら、近畿大会で結果を出さんと」と言いながら、強調したのは技術面より精神的なことだ。「一球一球、一つ一つのプレーに気持ちを込めることを指導した。今回、特に厳しくした」 迎えた昨秋の新人戦。初戦は快勝したものの、次の相手は夏の甲子園を制したばかりの智弁和歌山だった。「頼もしい先輩たち」が夏の和歌山大会の準決勝で敗れた相手だ。初回、いきなり5失点。その後も点を奪われ続けた。0-11、五回コールド負けを喫した。 しかし、実はこの試合は“智弁との2戦目”だった。前日、降雨ノーゲームとなった試合にエース・麻田一誠投手(2年)が登板。中盤まで猛打の相手をわずか1失点に抑えていた。「麻田はまあまあいけるな」。米原監督は手応えをつかんでいた。此上主将は振り返る。「敗戦後、監督が『この1カ月で絶対チームは変わる』と言った。やるしかないと思った」 「僅差で負けていたら『よう頑張った』と満足していたと思う。大差をつけられたことで『やらんといけん』と思わせてくれたのが良かった」と、米原監督は、ここでも逆転の発想を見せた。一見、甲子園には程遠いと思わせた大敗が、後の快進撃を生むことになる。【橋本陵汰】 ◇ 春夏通じて初の甲子園出場を決めた和歌山東。その新チームの成長と戦いぶりを追う。