<春の涙、いま・私のセンバツ>重ねた失策、逆転負けで苦手意識 守備に向き合い、弱点を長所に
3月18日に第95回記念選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)が開幕する。センバツの晴れ舞台で思うようなプレーができなかった元球児たちは今どうしているだろうか。苦い春が生きる力になっているのか、それとも――。 【第95回センバツ出場決定 各校の喜び】 ◇2016年出場、鹿児島実・板越夕桂さん(23) 2016年センバツで天国と地獄を味わった。鹿児島実の主力だった板越夕桂(いたごえ・ゆうき)さん(23)は3月25日、この大会で頂点に立つことになる智弁学園(奈良)戦に臨んだ。初戦で強豪の常総学院(茨城)を破り、勢いに乗る鹿児島実。板越さんは一回、先制の中前適時打を放つ。だが二塁を守っていた七回に暗転する。 1―0でリードのこの回、先頭打者のボテボテのゴロをはじいてしまう。観衆のため息と歓声が交錯し、「やってしまった」と気落ちした。送りバントで走者は二進し、球場のムードが一気に変わった。追い付こうと必死の相手、それを後押しする大声援。 たちまち同点とされ、2死二塁から再びセカンドゴロが来た。今度は一塁へ悪送球し、相手の決勝点につながった。「急に自分がちっぽけな存在に思えた」。逆転負け。板越さんは、前年秋の公式戦で無失策を誇り、内野の要のはずだった。「仲間の思いを自分が壊してしまった」と自分のミスを責めた。 現在、板越さんは足場用資材の売買や軽自動車の販売などを手がける「オールフロンティア」(東京都渋谷区)の野球部に所属し、アマチュア野球の最高峰の大会である都市対抗や日本選手権への出場を目指している。 足場用資材の買い取りと販売を行う、さいたま市内の営業所では副所長を務める。後輩社員たちをリードする責任がのしかかる。そうやって働くうちに気付いたことがある。「自分の弱い面から目を背けてはいけない」。高校卒業後に進んだ日本大学の野球部では守備の実力者が多い二塁を避けて一塁か三塁を守り、もっぱら打撃練習に力を入れた。心のどこかで守備の苦手意識にふたをしていた。 そんな「逃げ」を、オールフロンティアの前監督、田中亮さんに見抜かれた。「楽をするな」「細かく体を動かせ」と1年間、基礎をたたき込まれた。初めて守備に真正面から向き合った。厳しい練習に食らいついて上達したことが周囲に認められ、花形の遊撃手に抜てきされた。 仕事への向き合い方も変わった。仲間や取引先との間合いを計りながらコミュニケーションをとるのは得意ではなかったが、副所長として率先して取り組むうちに、やりがいを覚え始めた。「苦手なことに挑戦しないと視野は広がらない」 人は弱点こそ長所にできる。7年前の苦い春に学んだ。【戸田紗友莉】