『おむすび』「幸せにすることなんてできねぇ」 “一直線”だったからこそ出た翔也の言葉
悲しみよりもまず、怒りが湧いてきた結(橋本環奈)
そんな中、立川(三宅弘城)から結は「栄養士の観点で献立作って、うちのレシピ全部見直してくれ」と頼まれる。結と原口(萩原利久)が作成したレシピを見て、立川は自分の料理の味が濃いことを実感したのだという。味が濃いと食が進むため、それが今までは体づくりでタンパク質を必要とする選手のためだと思っていた立川。でも、社員は選手だけではない。年齢や性別もバラバラで、食が細い人、健康を気にしている人など、いろいろな社員がいる。そのことに、立川は結に指摘されて気づいたのだ。 同僚とぶつかったり、自分の甘さに気付いたり、仕事は楽しいことばかりではない。それでも、一生懸命頑張っていたら、報われる瞬間がふと訪れる。最初は翔也ありきで決めた道だったけれど、いつしかそれは結自身の道になっていた。きっかけは何でもいいのだと本作は教えてくれる。結はいわゆる普通の人間で、展開の派手さはないかもしれないけれど、日々を懸命に生きる市井の人にとことん寄り添った物語だ。 そんな嬉しい出来事があった日の翌日、結はようやく帰ってきた翔也から別れを告げられる。精密検査を受けた結果、重症なことがわかり、野球部にも退部届を出したという翔也。実家のイチゴ農園もすでに兄が跡を継いでおり、自分の居場所がないことを実感した翔也はすっかり落胆した様子で「プロ野球選手になって結を幸せにしてやりたかった。でもこれじゃあ、幸せにすることなんてできねぇ」と告げる。 そのことに悲しみよりもまず、怒りが湧いてきた結。それはおそらく、翔也に勝手に自分の幸せを決められたことに対する怒りなのではないだろうか。結は別に翔也がプロの選手になることを見込んで、好きになったわけではないのだから。間違いなく結と翔也にとって、ターニングポイントとなるであろう第13週。最善とまではいかずとも、2人が納得できる自分たちなりの幸せを見つけられることを祈っている。
苫とり子