美容医療大国・韓国で起き始めた専門医制度の崩壊、日本も対岸の火事では済まない
■ 美容医療というブラックホールに吸い込まれる韓国の医師 韓国の報道によれば、研修医ストライキに最も憤っているのは一般医ではなく、主にレジデントやレジデントを目指すインターンであることが明らかだ。 そんなレジデントの労働状況はどんなものか。韓国の論文を紐解くと、確かに厳しい状況であると言っていい。 研修期間1年目が週98.4時間、2年目93.3時間、3年目84.0時間、4年目66.3時間。日本では医師の働き方改革がこの4月から本格的に始まったが、例外とされる研修期間の医師でも最大で週当たり約80時間(法定労働時間+時間外労働時間、時間外労働の上限が年間1860時間)の制限がある。 韓国でも働き方改革が進んでいるが、医師は対象外になっており、労働時間上限は88時間。レジデント1、2年目はそれをも上回る。 報道によると、このような労働に当たっている研修医の収入は日本円で月約40万円という。労働時間で換算すると時給1000円ほど。韓国の物価は比較的安いとはいえ、それでも高給とは言えない水準だ。 こうした労働条件や金額水準も問題はあるものの、筆者には、前述の一般医との格差こそが問題になっていると見える。個人の待遇の不満というよりも、医療界の構造的な問題への不満が、「レジデントなんてやめてやる運動」につながっているという見方だ。 先ほどの朝鮮日報で紹介されたコメントでは、インターン後に専門資格を取らない一般医として皮膚科で働けば、給料は日本円で110万円程度になると紹介されていた。これは、レジデントの2倍を超える水準だ。 なぜ「皮膚科」かというと、美容医療を中心とした肌のメンテナンスを担うのが主に皮膚科だからだ。インターン上がりで専門資格を取らない一般医が、社会で必須とされているレジデントよりも高額の給与を得られるのだ。 これはやむを得ないかもしれないが、結果として医師はブラックホールに吸い込まれるように美容医療に吸収されてしまう状況が生まれている。 韓国の医師数は約13万5000人だが、一般医を含む美容医療に携わる医師が4分の1近くの3万人に達している。しかも、美容医療が施されるのは都市部に偏り、地方に医師が回っていかないという地域偏在にもつながっている。