井本商運・Marindows、次世代EV船建造。初の交換式コンテナ電池。完全ゼロエミへ
井本商運とMarindows(マリンドウズ)は18日、交換式のコンテナ型電池を搭載したEV(電気推進)コンテナ船を建造すると発表した。完全ゼロエミッションも実現する200TEU型船(499総トン)を2026年度に神戸―広島航路に投入し実証実験を行う。標準化・モジュール化を徹底して船舶とシステムを開発し、コストを削減。量産化や他の船種への展開も視野に運航コストの大幅な低減を図る。内航海運の船員不足・脱炭素・安全運航の課題の抜本的な解決に向け、普及を目指す。 プロジェクトは環境省の24年度「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された。実証期間は24年4月―27年3月。 EVコンテナ船は三浦造船所で27年1月に竣工する予定。交換式コンテナ電池と船内電池、発電機によるハイブリッド運航を行う。井本商運とマリンドウズによると、こうした内航コンテナ船は日本初。井本隆之社長は「これまでの内航船にない新しい発想の船を造る。将来の普及まで見据え、皆で内航海運の将来像を描いた」と意気込みを語る。内航海運の変革にチャレンジし、持続可能な未来を目指す。 EVコンテナ船は全長81メートル、幅13・5メートル、深さ6・6メートル。速力12・5ノット。コンテナ電池から電力供給を受け、推進出力360キロワットのモーター2基で航行する。発電機は補助用に備える。港湾の陸上設備で再生可能エネルギー由来の電気をコンテナ電池に充電し、寄港時に使用後のものと交換する仕組み。 コンテナ電池の本数・容量によりゼロエミッションでの航続距離が変わるが、20フィート型で容量2000キロワット時の電池を5本使えば神戸―広島間の333キロメートルをゼロエミッションで航行できる。発電機併用時の航続距離は最長5000キロメートル。 港での離着岸時などは主に船内電池、停泊中は陸上設備から給電する。アイドリングを行わず、港湾内・停泊中のゼロエミッションを実現する。 就航後はGHG(温室効果ガス)排出量と運航効率、コストのバランスの最適化に向け、モーターと発電機の出力を調整するなど運用方法を検証する。発電機の燃料は当面A重油だが、将来は水素燃料電池やバイオ・合成燃料などに対応。燃料の採掘・製造から使用までの完全ゼロエミッションを目指す。 船型は電動化に最適化した専用船型。機器・システムは全て標準化・モジュール化・量産化し、これらを一元管理するプラットフォームを構築する。テーラーメードで造られる既存のEV船と一線を画す「第2世代EV船」として建造する。 標準化を前提とした陸上からの支援システムも併せ、従来船よりも少ない人数で、経験の浅い船員でも安全に、効率的に運航できるようにする。 船価も既存船の30%増程度に抑え、運航を全体最適化することで総コストでは既存船と同程度にする計画。 将来の新技術やシステムの導入にも柔軟に対応し更新できる設計を採用したことも、大きな特長の一つ。同じ船を更新し続けられるようにし、船の陳腐化リスクを最小限に抑える。 ■井本社長「内航船が変わる」 井本商運は22年のマリンドウズへの出資をきっかけに、EVコンテナ船の研究を始めていた。次世代船の開発により、内航海運の課題解決に貢献する。荷主や外航コンテナ船社のスコープ3(サプライチェーン上での他社排出)のCO2(二酸化炭素)排出削減要請に応え、競争力を向上する狙いもある。 大型で重量のある主機関がなければ、船体設計の自由度も大きく増す。騒音や振動も低減するため、船員の労働・生活環境を大きく改善できる。中でも、機関部員の負荷が軽減するという。 船員不足対策としての期待は大きい。船員志望の学生や自社船員にEVコンテナ船についてヒアリングしたところ、非常に好評だったという。「一般的に昭和のイメージも残っていた内航海運が大きく変わり、未来を思わせるものになる」と井本社長は先を見据えている。
日本海事新聞社