【「本屋大賞2024」候補作紹介】『レーエンデ国物語』――少女ユリアの成長と闘いを描いた冒険ファンタジー
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2024」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、多崎 礼(たさき・れい)著『レーエンデ国物語』です。 ****** いつの時代もファンが絶えないジャンルといえば、ファンタジーではないでしょうか。小説、映画、ゲームと、古今東西の人気作品を挙げればキリがありません。そんな中、日本の新たな本格ファンタジーとして注目を集めるのが、2024年の本屋大賞にノミネートされた『レーエンデ国物語』です。 同書を開くと目次の次に出てくるのが、「聖イジョルニ帝国」「レーエンデ地方」の地図、そして登場人物の名前とイラストです。地図には砂漠や山脈の名前、それぞれの村の名前などが細かく記されていて、まるで実在の国であるかのような気分にさせられます。さらに冒頭には、 「革命の話をしよう。 歴史のうねりの中に生まれ、信念のために戦った者達の 夢を描き、未来を信じて死んでいった者達の 革命の話をしよう。」(同書より) との文章。これからどんな壮大な物語が始まるのだろうと、ファンタジー好きであればいやが上にも期待に胸がふくらむのではないでしょうか。 物語は、聖イジョルニ帝国フェデル城で育った貴族の娘ユリア・シュライヴァが、騎士団の英雄として名高い父・ヘクトルと旅に出るところから始まります。目的地はレーエンデ地方。ここは「銀呪病」という郷土病が巣くう呪われた土地として知られていますが、ユリアにとっては幼いころからいつか行きたいと夢見ていた憧れの地でした。 閉鎖的な母国を逃げ出すように飛び出したどり着いたレーエンデで、森の民と暮らし始めたユリア。のどかな暮らしの中で初めての友情や恋を経験し、やっと自身の居場所を見つけますが、やがて彼女は帝国の存続を揺るがす大きな争いへと巻き込まれていくことに......。 ユリアとともに同書の要となるキャラクターが、レーエンデの案内役を務めるトリスタンです。射手の達人であり、寡黙ながらも優しさと誠実さを秘めた美しい青年――彼の魅力はこの物語を盛り上げる大きな要素となっています。次第に親友とも親子とも呼べるような信頼性を築いていくヘクトルとトリスタン、ヘクトルを守りたいという同士的な絆で結ばれるユリアとトリスタン、そこから次第に恋愛感情を抱いていくふたり......そうした関係性の変化は同書の見どころと言えるでしょう。また、ユリアが療養所「森の家」の仕事を通して生きがいを見つけていくところ、最初は苦手だったリリスと心を通わせて親友になるところなど、同書はユリアの成長物語としても読みごたえがあります。 それだけに、中盤から避けられぬ戦いへと巻き込まれていくユリアやトリスタンの姿には心つかまれずにはいられません。できれば、これからももっともっとこの壮大なる物語の中に浸っていたい......と願う読者も多いことでしょう。そんな要望に応えてか、現在、シリーズ続編となる『レーエンデ国物語 月と太陽』『レーエンデ国物語 喝采か沈黙か』も刊行中です。ファンタジー好きであれば、きっと魅了されるであろう同書。温かな飲み物とブランケットを手に、皆さんもユリアたちと冒険の旅へと出かけてみてはいかがでしょう。 [文・鷺ノ宮やよい]
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