酒造りの現場で進む働き方改革 職人の世界を守りながら始業を1時間半遅らせた方法とは
清酒醸造の遠藤酒造場(長野県須坂市)が、日本酒の造り手たちの働き方改革を進めている。9月に始まった今季の酒造りでは、工程の順番や作業の見直しなどで早朝の始業時間を繰り下げた。職人技が試される独特な業界だが、改善点をまとめたマニュアルも作成し、ワーク・ライフ・バランス(仕事とプライベートとの両立)の実現が可能な職場環境の整備を目指す。
酒造りを担当する製造部門は1日4人態勢で従事。これまでは午前6時前に作業を始め、複数回の休憩を挟みつつ、夕方5時までに仕事を終わらせていた。仕込み作業がない夏に比べて始業時間が大幅に早まり、杜氏(とうじ)らは生活リズムを変える必要があった。特に、こうじ菌を育成して米こうじを作る製麴(せいぎく)のために、菌の発酵に必要な酒米を蒸す作業を始業直後の早朝に行っていた。
杜氏の高野伸さん(37)らが、製麴の作業を中心に見直しに着手。同社は精米歩合などによって2種類の菌を使い分けており、製麴を終えた米こうじを搬出する時間が日によって異なったが、一つの菌を変更して時間を統一した。全体のスケジュールを立てやすくした。
その他の工程でも複数回に分けていた作業をまとめるなどし、酒米を蒸す作業の開始を遅らせた。県工業技術総合センター食品技術部門(長野市)に相談し、一連の変更点などはマニュアルにまとめ、今季から本格運用を開始。終業時間はそのままに、始業を従来よりおよそ1時間半遅らせることに成功した。
他社の製造現場を見学するなどして、製麴作業以外でも業務の見直しを進めている。高野さんは「酒造りに夢を見て入っても仕事のつらさで辞めてしまう人もいる。最近は業界でも(働き方について)考える人が増えてきた」とする。杜氏らの経験や勘も大事な酒造りの現場だが、「今までの方法を当たり前と思わずに、心の余裕やプライベートも大切にできる職場にしたい」とした。