『ガンダム』随一のやられ役? 地球連邦軍はなぜ「ボール」を実戦投入したのか
そもそも「支援用」ではなかったかも?
多くの軍隊は「自分の軍隊に配備された兵器は、敵も同様のものを使ってくる」と考えるものです。 一年戦争末期のこの時期、連邦軍最強の兵器は「MS」ではありません。MSよりも、使用できれば圧倒的に威力がある兵器を連邦軍は保有しています。すなわち「ソーラ・システム」です。大型ミラーにより太陽光を集め、その熱量で広範囲の敵を燃焼させるという恐ろしい兵器で、使用された宇宙要塞「ソロモン」は、宇宙艦艇やMSだけでなく、要塞も深刻なダメージを受けています。 原理も簡単ですから、連邦軍は「ジオンも同様の兵器を投入してくる」という考えがあったのではないでしょうか。 ちなみに、連邦軍はこの時期「パブリク突撃艇」を実戦投入しています。宇宙船に、「ビーム攪乱幕」を展開する大型ミサイルを搭載した機体です。つまり「ジオン軍のビーム攻撃を無力化」したかったわけです。しかし、一年戦争末期でもジオン軍は、ビーム兵器を主兵装とする「ゲルググ」は少数配備で、主力機である「リックドム」や、多数生産された「ザクII」は実弾兵装です。 艦艇数でも連邦軍が圧倒しているのですから、連邦は味方戦艦の長距離ビームが無力化され、ビームスプレーガンを主兵装とするジムが戦いにくくなっただけかもしれません。つまり「自軍がビーム兵器をMSに搭載しているのだから、ジオンも搭載している(くる)だろう。だからビーム攪乱幕が必要」という誤判断で、パブリクを大量生産し、むしろ自軍戦力を低下させたとも考えられるわけです。 さて、ジオン軍がソーラ・システムを使用してくると想定したとして、「ジオン軍もビーム攪乱幕を使ってくるはずだから」、そのソーラ・システムを長距離ビームで破壊するのは困難と、連邦は感じたのでしょう。 そのような時に、大口径砲を搭載したボールが多数あれば、「実体弾の弾幕でソーラシステムを展開前に破壊できる。ソーラ・システムは広範囲に展開するもので、それに命中弾を与えることは容易だから、ジムを上回る長距離センサーなど必要ない。また、民生用の作業用スペースボッドと同じ作業能力を備えたボールは、味方の『ソーラ・システム』展開時の作業用としても有効に使えるはず」と、連邦は考えたのではないでしょうか。そう考えるなら、ボールの持たされた性能は合理的に感じられます。 こうしたことから、敵のソーラ・システム対策としてボールを大量生産したものの、ジオンが開発したソーラ・システムは連邦のミラー式ではなく、スペースコロニー自体をレーザー砲にする「ソーラ・レイ」だったので、ボールを配備してもあまり意味がなく、仕方なくジムの支援用として使うことにした、ということだと思われます。 そしてジオン残党が「ソーラ・システム」を使わないことが判明した戦後は、モビルポッドの存在を誰も顧みなくなったということではないでしょうか。
安藤昌季