定年後「補助的な仕事」をして「第二の定年」を待つ姿勢が許されなくなった「厳しい現実」
人口減少日本で何が起こるのか――。意外なことに、多くの人がこの問題について、本当の意味で理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 【写真】じつは知らない、「低所得家庭の子ども」3人に1人が「体験ゼロ」の衝撃! 100万部突破の『未来の年表』シリーズの『未来のドリル』は、コロナ禍が加速させた日本の少子化の実態をありありと描き出している。この国の「社会の老化」はこんなにも進んでいた……。 ※本記事は『未来のドリル』から抜粋・編集したものです。また、本書は2021年に上梓された本であり、示されているデータは当時のものです。
抜擢人事は「降格者の増大」という影を落とす
人件費のやり繰りと並ぶ大きな懸念は、組織の停滞である。 企業は人件費の総原資枠を設定するのと同時に、社員を無計画に採用しないよう「定員管理」も行っている。これまで多くの企業は、定年退職者数や離職率を考慮して新卒者や中途社員の採用数を決めてきたが、定年後も会社に留まる人が想定以上に増えれば、若年層を減らさざるを得ない。一番簡単なのは、新卒者や中途者の採用の抑制だ。 ただでさえ、少子高齢化によって社員の高年齢化が進み、20代、30代の若手が相対的に少なくなっていくというのに、採用抑制まで加わったなら、ますます組織が"若返る力"は衰える。高齢社員を雇用するために給与が抑制されたうえに、組織が活性化しづらいとなれば、意欲ある若手の流出は止められなくなる。 すでに社員の高年齢化による組織の停滞を打破しようと、優秀な新卒社員に多額な報酬を支払ったり、30代で部長ポストに就けるようにしたりといった「年功序列人事」を見直す企業が目立ちはじめているが、こうした取り組みはますます強化されるだろう。 パフォーマンスを引き出す抜擢人事は、一方で「降格者の増大」につながることも認識しておく必要がある。昇格者だけを増やしたのでは、ポスト不足はもとより、平社員よりも役職者のほうが多いという頭でっかちの組織となるためだ。 70歳まで雇用の定着が直接の引き金となるわけではないが、巡り巡って成果主義を推し進め、予期せぬ形で日本型の雇用習慣を壊していくこととなる。そこまで大きく人事制度を変えたくない企業は、高齢者雇用そのものに慎重になっていく。 第3の懸念は、デジタル改革のタイミングと重なったことにある。コロナ禍によってデジタル技術の重要性がこれまで以上に認識されるようになり、多くの企業はビジネスモデルの変容を迫られている。デジタル新技術の習得は、高齢者に限らず全社員にとって必須となる。 こうした激しく変わりゆくビジネス環境の中で、高齢世代が再教育によって次々と新技術や新知識の習得を迫られても、身に付けるのには困難が伴うだろう。企業側としては、コストパフォーマンスを考えれば、若手社員の教育に力を入れるのが当然だ。 デジタル技術の進歩に伴い、働き方の見直しも進み始めている。コロナ禍を契機に、ジョブ型雇用への移行を進める企業も増えてきた。当然ながら、再雇用の高齢社員に対しても成果や費用対効果を求める流れは強まるだろう。企業が「70歳まで雇い続けたくなる人材」に求める能力は高度になり、ミスマッチが増えるということだ。 そんな困難を押してまで定年を廃止したり、70歳に延長したりする企業は多くはないだろう。長年勤めてきた企業や慣れた仕事のまま70歳まで働き続けられる人は、現実的には国家資格や専門的技能を有するような一部の人材に限られる。多くはフリーランス契約やボランティア活動といった道を選ばざるを得なくなるのではないだろうか。 コロナ禍で収益構造の改革に追われ、余力を失っている企業は少なくない。70歳までの雇用どころか、60代前半を含めた定年後の雇用に関しては働く側の意識改革も求められそうだ。 少子高齢社会では、働く意欲のある人が働かなければ、社会が機能しなくなる。そうした意味では70歳までの雇用が定着していくことが望まれる。だが、現実問題として、それは1つの企業で働き続けることとは別の話だ。 スキルを磨き続け、年齢を超えて"必要とされる人材"であり続けるか、仕事を選ばず新しい分野にどんどん挑戦し、求められるところで働くことである。 少なくとも、「定年退職後は補助的な仕事をしながら"第二の定年"を待つ」といった姿勢は許されなくなる。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、多くの人がまだまだ知らない「人口減少」がもたらす大きな影響を掘り下げる。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)