まるでマジック!寝たきりの人を体を起こすことなく着替えさせる、すごい方法
新卒で入社した出版社で、書籍の編集者一筋25年。12万部のベストセラーとなった『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(多良美智子)などを手がけた編集者が、40代半ばを目前にして、副業として訪問介護のヘルパーを始めることを決意しました。働き始めるために必須とされたのが「介護職員初任者研修」の受講。今回は、研修での「更衣(着替え)」の実技のお話です。 【本編】画像を見る 『介護スキルの一つ「迎え手」とは』
寝たきりの方の服をどうやって着替える?
車椅子への乗り移り、ベッド上の体位変換や起き上がりなど「移乗・移動」を一通り習った後は、「更衣(着替え)」の実技でした。 起き上がって椅子に座った状態での更衣介助と、ベッドに横になった状態での更衣介助を教わりました。 寝たまま着替えるなんて、自分でするのも難しいのに…。寝たきりで体を動かせない方の服をどうやって脱ぎ着する? しかし、介護技術は完全に体系化されたスキル。どんな難しいシチュエーションにも、ちゃんと解決策が用意されています。 「移乗・移動」で習った、ベッド上での体位変換の技術を使います。シャツを脱ぐときは、まず、体を右向きにして右袖を抜き、次に体を左向きにして左袖を抜くというように、半身ずつ行っていきます。ズボンを脱ぐときも同様に、体を右向きにしてズボンの右側をおろし、左向きにしてズボンの左側をおろします。こうすると、利用者さんは一度も起き上がることなく、着替えが完了してしまいます。
着替え中に服に指が引っかかって骨折!?
更衣の実技で、「まず頭に入れておく必要のある、とても大事なことです」と教えられたのは、更衣は実は「事故が起こりやすい介護シーン」だということ。 着替えで事故? どういうこと? 服を脱いだり着たりするだけなのに? 「高齢者の体の変化として、骨が弱くなり、骨折しやすくなるということがあります」と講師の先生。それならば、私でも知っています。母は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)で、75歳のとき背骨を圧迫骨折しました。本業の編集者として、高齢者向けの健康本も作っており、大腿(だいたい)骨骨折が危ないという知識もありました。だから、転ばないように気をつける必要がある、との認識はありました。あぁそうか、ズボンをはき替えたりするときに、ぐらついて転んで骨折してしまうということ? そう考えました。けれど…。先生が語ったのは思いもつかない理由でした。 「もちろん、転倒による骨折もあります。それだけでなく、更衣の介助中に服に引っかかった腕や指が骨折してしまう、ということがあるのです」 えぇ、そんなことがあり得てしまうのか。もろくなるのは背骨や大腿骨にかぎらず骨全体なのですね…。そこまでは想像が及びませんでした。