「脱製造業」で初の金融出身 経団連次期会長の筒井義信氏、財界の役割も変化
「財界総理」と称される経団連の次期会長に、日本生命保険の筒井義信会長(70)が起用される。経団連会長は産業の裾野が広い製造業から就くのが慣例で、金融機関からは初めて。日本経済を取り巻く課題は、深刻な人手不足を起こした少子高齢化や、地球温暖化を含むエネルギー分野など多岐にわたり、これまでの製造業の枠を超えた幅広い政策提言が求められることが背景にある。 「製造業でなければならないという視点には立たなかった」。十倉雅和会長は今月17日、新会長の起用方針について、記者団にこう説明した。 歴代の経団連会長で非製造業の出身者は2人だけ。十倉氏は住友化学出身で、近年も日立製作所や東レ、キヤノンなど製造業大手の出身者だ。輸出産業に逆風となる円高の是正や、自由貿易体制の推進などに取り組んできた。次期会長の有力候補にも、一時はトヨタ自動車の豊田章男会長が本命視されたほか、日立の東原敏昭会長や日本製鉄の橋本英二会長らの名前が過去に挙がった。 ただ、新卒一括採用や終身雇用など高度経済成長を牽引した旧来の製造業モデルは時代に合わなくなり、デジタル化やグローバル化の遅れがイノベーション(技術革新)を阻害している。十倉氏は「地方、産業競争力、地球環境、格差、社会保障-。これらは全て相互に絡み合っている」と指摘し、経団連も従来の産業政策だけでなく、社会課題の解決に取り組まねばならないと強調する。 経団連が9日公表した日本が成長するための道筋を示す2040年までの中期ビジョン「フューチャー・デザイン2040」でも、社会保障やエネルギー改革を柱に据えている。十倉氏は「ぜひ後任の会長にも、基本的な考え方は引き継いでほしい」と注文をつけた。 これに対し、筒井氏は2023年から経団連副会長を務め、24年には政府が脱炭素社会に向けて設立したGX(グリーントランスフォーメーション)推進機構の初代理事長に就いた。生保経営者として税や社会保障に詳しいだけでなく、約120兆円の預かり資産を持つ最大級の機関投資家として他業種にも造詣が深い。日生の全国の営業拠点を通じ地方経済にも詳しい。 このため十倉路線の後継者として適任との評価だが、規制改革などを提言する立場上、国の免許を要する金融企業から選ぶことに違和感を指摘する声もある。否定的な見方を言動ではね返し、経済界のリーダーとしてふさわしい独自色も出していけるのか。筒井氏に課されたハードルは高い。(佐藤克史)