印象的な山田新との熱い抱擁とチーム全員からの花道。バフェティンビ・ゴミスが川崎にもたらしたモノ
誰もが称賛する人間性
[J1第32節]川崎 5-1 新潟/9月27日/Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu 【動画】川崎×新潟ハイライト 誰もが人間性を称賛し、誰もが要所でのワールドクラスの技術に舌を巻いた。 昨夏に川崎に加入した元フランス代表ストライカーの39歳、バフェティンビ・ゴミスがクラブ退団に伴い、9月27日の新潟戦の前に等々力で会見を開き、試合後にはサポーターとの別れへセレモニーも行なった。 試合はゴミスを温かく送り出すかのように、彼と切磋琢磨し、テクニックを学んできた25歳のFWエリソン、24歳のFW山田新が2ゴールずつを奪うなど5-1の大勝となった。 試合後にはロッカールームの前でチームメイトたちを待っていたゴミスと山田が熱い抱擁をかわす。15歳差のふたりは言葉の壁を越えて良い関係性を築いていたことは有名な話で、山田も「今日はバフェが最後だったので、絶対に自分がゴールを決める姿を見せなければいけないという想いがあった。ヨーロッパの一流のストライカーはどういうものなのか、ストライカーとしての佇まい、ゴールの取り方など細かいところから教えてもらった」と振り返る。 そして勝利をチームと分かち合ったゴミスは、選手、スタッフたちが作った花道を笑顔で抜けてピッチでのセレモニーへと足を踏み出していった姿も印象深い。 どれだけ彼がチームから愛されてきたかが分かるシーンでもあった。 「世界的なスーパースターがきたなかで、彼の謙虚さとか、そこは自分たちだけでなく、メディアの方も多分感じたんじゃないかなと思いますが、やはり、そこのリスペクト、日本人、日本の環境にリスペクトを持ってくれていましたし、逆にそういう姿勢が彼をみんながリスペクトする姿勢につながったのかなと」 そう話すのは鬼木達監督である。 ゴミス本人も「チームに100パーセント貢献しきれていない」と退団の理由を語り、「(山田)シンや(神田)ソウマが、若い世代の選手が育って、そこから川崎の将来を担う選手たちがこれからは引っ張っていく。サッカーの世界では、新陳代謝が行なわれるのは自然な流れ」と若手への期待を口にしたのも彼らしい。 今後に関しては「他のチームを探してということは現時点で考えていない」「ヨーロッパに帰り、家族と時間をともに過ごしながら次のステップを進めていけたら」と今のところは白紙であるとも語っている。 改めて、川崎に残したものは確かにあった。指揮官は欧州での経験が豊富な一流のストライカーを指導するにあたって学びが多かったという。 「一緒に仕事をできたのも大きかったです。お互いリスペクトしながらでないと、話しても進んでいかないですし、自分がそういう姿勢を持つことでバフェもそういう姿勢を見せてくれました。これはバフェに限らないですが、自分の考えとしては、人に認めてもらいたいなら自分が認めなくてはいけない、当たり前ですが、自分だけリスペクトしてもらおうなんて基本的にあり得ないと思っているので、スーパースターと呼ばれる人たちにも分かってもらえるところはあったのかなと。 指導者として、難しい判断をしなきゃいけない時もありますけども、でも真摯(しんし)に話せば、お互いに分かり合える部分もありますし、お互いプロですので、お互いの意見を言うところも、バフェだけではないですが、そういう話はやはり改めて重要だなと思いました。勉強になることも多かったです。 『もっと早く日本に来ていれば』とも話していましたが、人として、あの年齢をやるまではクオリティのところが大事なんだなと、特別なものがないとあの年齢まではできないんだなと、非常に学びになりました。 若い選手へのチャンスの必要性や、ヨーロッパだったらこうだ、みたいな色々な話をしながら、本当にそういうところの若手への想いもあれば、僕自身はバフェへの期待というか、若手への想いだけでなくバフェ自身にも頑張ってもらいたいみたいな話を色々することができました」 同じストライカーの37歳の小林悠も「やっぱり多くのシュートを決めてきたんだなと、最後の最後まで足首を変えられるし、懐の深さもある。上手さ、経験はトップレベルでもっと早く出会えていれば。人間性も素晴らしく、長くやるには、そういう選手しか残らないと思うし、お手本になるようなリスペクトされる選手でした」とコメント。 トレーニングでマッチアップする機会の多かったDF佐々木旭も驚きを口にする。 「なかなかやったことがない相手というか、背負われたらボールが見えないですし、一瞬のスピード、テクニックは凄いものがあったので、そういった選手とやれたのは自分にとって大きかったですし、そういう選手と今後やっていくために成長していきたいです。 初めて練習で対峙した時の衝撃は今でも覚えていますし、練習でも上手くバフェからボールを取れたシーンはなかったと思うので、もうちょっとやりたかったですが、自分が成長してそういう選手とやれる舞台に立てれば良いと思います。 プレー中もすごく要求してくれて、バフェに言われて気付いたこともたくさんありました。普通の選手では要求してこないようなタイミングで縦パスを出して欲しいとか、多くを学ばせてもらいました」 他の選手たちも多くのポジティブな言葉を残している。 一方で、今年5月の札幌戦でJリーグ初ゴールを含めたハットトリックを記録したが、昨季はリーグ戦で8試合・0得点、今季は9試合・3得点と、39歳の彼のコンディションもありつつ、チームとしてその能力を活かし切ることもできなかった。 南米路線の色が強い川崎にとって、ヨーロッパから一流選手を迎え入れるのは大きなチャレンジでもあった。 ワールドクラスとしての意識の高さ、技術を示してくれたのはチームにとって貴重な財産だが、戦力として落とし込む点には課題が残ったと言えるだろう。 竹内弘明強化本部長は退団にあたって、クラブが得たモノをこうも示していた。 「ワールドクラスのプロサッカー選手を初めてと言いますか、南米の選手はいたのですが、ヨーロッパから獲得するにあたっては準備するものも異なるので、学ぶことは多かったです。 そのなかでチームが、クラブが成熟していくには先駆けて経験値だったり、ワールドワイドを見た時に、より広く選手選考もやっていくことが大事なのかなと感じました。 そしていろんな選手がフロンターレでプレーしたいというクラブになることが、世界的にも認められるクラブになっていくということでしょうし、そういった意味でもヨーロッパに戻った後も少しでもフロンターレの良さを伝えてくれたら良いなとも思っています」 ゴミスは「ヨーロッパに帰ったあとも、日本には川崎フロンターレというビッグクラブがあるとポジティブに伝えたい。日本、そして川崎と接点を持っていけたら」と話していた。 今回のプロジェクトがどんな成果を残すかは、今後の動きにもかかってきそうだ。 取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)