ストレスによる労災認定基準が見直されました。労災ではどのような給付が受けられるのでしょうか?
心理的負荷による精神障害の労災認定基準が9月に見直され(※1)、認定範囲が広がりました。労災認定後の労災補償の種類についても確認します。
認定基準の緩和とカスタマーハラスメントの追加
厚生労働省ホームページの「精神障害に関する事案の労災補償状況」によると、精神障害の労災保険給付請求件数は、この5年間を見ても毎年増加しており、令和4年には請求件数が2683件、決定数が710件となっています(※2)。 これまでは、強い業務起因性が確認できる「特別な出来事」の存在が認定の基準のひとつでしたが、その基準を見直すなど全体に緩和および具体的事例の拡充を図った内容といえます。 また、カスタマーハラスメント(カスハラ)が追加され、心理的負荷と認める対象が拡大しました。背景には、コロナ禍の経験や在宅勤務の急激な浸透などの働き方や環境の変化、心理的負荷を招くさまざまな原因の認知が進んだことなどが挙げられるでしょう。 見直しのポイントは、図表1のとおりです。 図表1
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」(※1)から転載 このような見直しにより、これまで認定されなかったケースにも今後は業務起因性が認められ、労災認定される方が増えることが考えられます。
労災請求は40代が最多
厚生労働省が公表した、「令和4年度の精神障害に関する労災補償状況」から、労災請求数を次の2つの調査で見てみましょう。いずれも上位5番目までの結果です(※2)。 1. 年齢層別 40代(779件)、30代(600件)、50代(584件)、20代(554件)、60歳以上(137件) =40代が最も多く、労災の決定数も最も多い結果となりました。 2.業種別(中分類) 社会保険・社会福祉・介護(327件)、医療業(294件)、道路貨物運送業(147件)、総合工事業(95件)、情報サービス業(85件) =業種の大分類では上から「医療・福祉」「製造業」「卸売業・小売業」と続きますが、もう少し細かく見ていくと上記のとおりです。 最近、「2024年問題」が大きく取り上げられています。労働基準法の時間外労働の上限規制適用に、5年間の猶予期間が設けられていた仕事があるのですが、2024年度から適用になることで働き方の見直しや人材確保の問題に直面しています。 実は、その猶予された仕事が上記の業種別(中分類)の労災請求数2位から4位までと重なるのです。適用が猶予されているのは、次の仕事です。 ●医業に従事する医師 ●自動車運転の業務 ●工作物の建設の事業 医師、流通・輸送業、建設業ですね。時間外労働の上限規制適用により、これらの仕事の従事者の労災請求数に変化があるのか、最も多い福祉・介護分野とともに今後注目されます。