【連載 大相撲が大好きになる 話の玉手箱】第17回 「三賞」その3
3場所連続して二ケタの勝ち星を挙げ、一気に小結まで駆け上がった
令和2年7場所は4カ月ぶりの本番でした。 1場所飛ぶって、大変なことなんですね。なにもかもが異例尽くめ。 力士たちも戸惑うことが多く、あちこちでため息や、ボヤキが渦を巻いていました。 優勝力士や、三賞受賞者の晴れやかな顔を拝めるのも久しぶりです。 まあ、優勝力士は別格ですが、三賞に輝いた力士たちの晴れやかな笑顔にはなつかしさを感じます。 泣き笑い、と言ってもいいでしょう。過去の三賞力士たちもそうでした。 えっ、もう一度、そんな声を聞いてみたいって? 分かりました。それでは玉手箱のフタを開けてお届けしましょう。 ※月刊『相撲』平成31年4月号から連載中の「大相撲が大好きになる 話の玉手箱」を一部編集。毎週金曜日に公開します。 取り戻した敢闘賞 取り戻した敢闘賞 三賞を取りそこなうというのはまた、大きな試練。これをどうクリアするか、力士たちは問われているといっていい。 平成29(2017)年の夏場所から秋場所にかけての阿武咲はあっぱれのひと言に尽きた。夏場所、待望の入幕を果たすと、押してよし、差してよしの万能相撲で、3場所連続して二ケタの勝ち星を挙げ、一気に小結まで駆け上がったのだ。1場所15日制が定着した昭和24(1949)年夏場所以来、初めてのことで、あの白鵬(現宮城野親方)でさえ成し遂げられなかった快挙だった。 その真ん中の名古屋場所、順風満帆だった阿武咲に初めて逆風が吹いた。14日目、嘉風(現中村親方)を寄り切って10勝目をマークし、敢闘賞候補にあげられたが、 「後半、やや物足りない」 とクレームがつき、千秋楽に勝ったら受賞、という条件がついたのだ。ただ、相手は1枚も、2枚も経験豊かな関脇の御嶽海。立ち合い、思い切ってぶつかったものの、当たり負けし、そのまま一気に押し出されてしまった。完全な力負けだった。 惜しくも2場所連続の敢闘賞を逃した阿武咲は、 「自分は三賞を取るために相撲を取ってるワケじゃない。弱いから負けただけ。いい勉強をさせてもらいました。課題を見せつけられた」 と半分開き直ったようなセリフを口にしたが、翌場所はこの悔しさをバネにまたまた10勝を挙げ、今度は文句なしで敢闘賞を受賞した。力で取り戻したのだ。いまの阿武咲にあの頃の勢いや執念が見られないのはさみしい。 月刊『相撲』令和2年8月号掲載
相撲編集部