「隈研吾デザインのカフェ」建設に至った奇跡のような「5分間のプレゼン」
板金職人にとって至福のひとときと言えば、10時と3時の「いっぷく」の時間。小さいころ、お父様に頼まれてたばこを買いに走っていたのが、このたばこ屋さんでした。内野さんはふるさとを盛り上げる拠点として、この物件を買い付けます。 そんな折、内野さんはお友達の誕生日祝いに金属の「折り鶴」をプレゼントしました。この折り鶴が、ひょんなことから建築家・隈研吾さんの手に渡ります。そのご縁で隈さんの事務所を訪ねる機会に恵まれた内野さんは、自然と板金へのこだわりや、地元の商店街への思いを熱く語り出していました。 すると、スタッフの方が「いまの話すごくいいから、隈に言ってごらんよ。何とか5分、時間をつくるから」と提案してくれたそうです。ほどなく現れた隈研吾さんを前に、内野さんはスマートフォンに1枚だけ入っていたたばこ屋さんの写真を見せながら、いま自分が思っていることを全てぶつけました。 自分が折り鶴をつくっている人間であること、板金業をもっと魅力的な仕事にしたいこと、そして、ふるさとの商店街を再び盛り上げたいこと……。内野さんの話を一通り聞いた隈さんは、口を開きました。 「それ、ボクも手伝うからやろうよ!」
奇跡のような5分間のプレゼンから1年半あまり。売りに出されていたたばこ屋さんは、隈研吾さんのデザインによってカフェ「和國商店」へと生まれ変わりました。 700枚の五角すいの銅板からなる建物の壁は、光の当たり方や雨のぬれ方によって見え方が変化することから、行列に並んだ方にとっては鑑賞のひとときになっています。地元の皆さんも「商店街の目玉になる建物ができた」と大喜びですが、内野さんはお店のオープンで終わるつもりはさらさらありません。 「日本の板金の技をもっと世界へ発信していきたいですし、板金業の魅力も、もっとわかりやすく伝えていきたいんです」 ふるさと・東村山から世界へ。板金職人・内野さんは地に足をつけながら、もうその先を見据えています。