センバツ2022 決勝 近江、躍進の春 補欠から準優勝 /滋賀
「敗れはしたが立派な準優勝だ」――。第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社など主催)で県勢初の決勝に進出した近江は大会第11日の31日、大阪桐蔭(大阪)と対戦した。準決勝での負傷から本調子ではないエースの山田主将が序盤から失点、救援した投手陣も打たれて1-18で敗れ、惜しくも初優勝はならなかった。それでも好守備や諦めない走塁など、最後まで全力プレーを見せた選手たちが閉会式で準優勝旗を手にグラウンドを一周すると、場内からは大きな拍手がわき起こり、「夏に借りを返せ」など温かい声援が送られた。【礒野健一、小林遥、山口一朗】 近江の先発メンバーが発表されると、一塁アルプススタンドがざわめいた。これまで不動の「四番・投手」だった山田が、準決勝で受けた死球の影響から「九番・投手」でスコアボードに表示されていた。父斉さん(46)は「気持ちで負けたくないのだろうが、父親としては無理をしてほしくないのが本音」と心配そうな表情を見せる。代わりに4番に入った岡崎の父英司さん(42)は「甲子園決勝の4番打者というのは、私もドキドキする。硬くならず、4番目の打者という気持ちで頑張って」と見守った。 試合は序盤から相手ペースで進む。二回までに2点を許し、三回に2点本塁打を浴びたところで、今大会を一人で投げ抜いてきた山田が降板。甲子園初登板の星野に継投する。山田から一言「頼むぞ」と託された星野は、最初の打者を三振に打ち取るなど力投を見せるも、相手の強力打線の前に徐々に点差が開いていく。星野は試合後、「自分が信頼される投手だったら、もっと山田を助けられた。夏には2人で試合を作り、チームを勝たせたい」と誓った。 反撃したい近江は五回、川元の内野安打から2死二塁の好機を作ると、相手の失策で1点を返す。OBの見市智哉さん(20)は「決勝進出は誇りに思う。チームがこの舞台にいるだけでうれしい」と、追加点を期待する。 終盤にかけても相手の猛攻は続くが、応援席の声援は途切れない。野球部ほか約40人の生徒が暮らす学生寮「青和寮」の寮監、窪田温(たずね)さん(73)は「厳しい展開でも、絶対に収穫はある。最後まで全力プレーを見せて」と応援した。八回途中からは、平井が3番手で登板。1回3分の2を無失点に抑える好投を見せた。平井の父徹さん(46)は「とても良い経験になったはず。今後に生かしてほしい」と拍手を送った。 九回にも石浦、大橋の連打で1死一、二塁と見せ場を作ったが、あと1本が出ず試合終了。大橋は「ブラスバンドの応援が力になって、最後に好機を作れた」と感謝した。大会開幕前日に補欠校として急きょ出場して快進撃を続け、史上初の補欠校による全国制覇にあと一歩まで迫った選手たちには、一塁アルプススタンドだけでなく、球場全体から大きな拍手が送られた。 昨夏の甲子園で4強入りした時の主将、春山陽生さん(18)は「決勝で負けたことで、夏への課題も見つかっただろう。日本一を目指して、またゼロからスタートしてほしい」とエールを送った。 ◇応援で選手に力 ○…一塁アルプススタンドでは、近江の吹奏楽部が地元スーパーのイメージソングを甲子園で初披露した。普段は卒業演奏会などで演奏しているが、同校の決勝進出を受け顧問の樋口<ruby><rb>心(しん)教諭(46)が「県民にもっと応援してもらいたい」と演奏を決めた。部長の福永千秋さん(3年)は「演奏が選手たちのパワーになれば」と期待した。前日に部員で振り付けを考えたという野球部応援団長の竹内草太選手(同)は「メンバーが決勝の大舞台で全力で躍動できるように」と踊りに力が入った。 ◇「県民の誇りだ」三日月知事 近江のセンバツ準優勝を受け、三日月大造知事は「急きょの出場決定にもかかわらず、諦めない強い気持ちで数々の接戦を制した末の準優勝。大きな感動と勇気をいただいた。県民の誇りだ」とコメントを発表した。 ◇懸垂幕でお祝い 彦根市役所 彦根市役所1階ロビーでは、市民らが大型テレビに映し出される地元球児たちの健闘を見守った。初優勝には届かなかったが、同市松原町の旅館経営、片岡純一郎さん(45)は「急な甲子園出場でも大活躍だった。滋賀のレベルを全国にアピールした」と誇らしげだった。 市役所外壁に掲げていた応援懸垂幕(縦5・4メートル、横0・75メートル)に試合終了後、「選抜滋賀県勢初! 準優勝」と文字が加えられてつり上げられる=写真=と、職員たちから大きな拍手がわき起こった。【伊藤信司】 ……………………………………………………………………………………………………… ■球音 ◇打撃で夏は勝つ 横田悟選手(2年) 初回、先頭打者の打球が遊撃を守る自身の後方にふらふらと上がった。打球を追いかけるが、風に戻されたボールがグラブからこぼれた。この後、相手の安打で先制を許す。守備には自信を持っていただけに「あれで悪い流れがきた」と唇をかんだ。 学校がある彦根市内に自宅があるが「登下校の時間がもったいない。より野球に専念したい」と、学生寮に入って生活する。昨夏は1年生ながら正遊撃手となり、甲子園4強入りに貢献した。 新チームでは内野の要としてリーダーシップを発揮、エースの山田も「安打になりそうな打球を何度もアウトにしてくれた。本当に助けられている」と話す。父正俊さん(50)は「良い先輩に恵まれ、人間的にも成長している」と目を細める。 だからこそ、けがを押して決勝のマウンドに立ったエースを支えられなかった自分が許せない。幸い、夏に挽回するチャンスは残っている。「投手が安心できる守備の安定感と、どれだけ点を取られても取り返せる打撃で夏は勝つ」と誓った。【礒野健一】