女装男子と女性のマッチングウェブサービス開始 性差の理解がある“女子っぽい男子”需要が上昇中
目の前であざとかわいいポーズを決めているのは、20代男性のむささびさん。普段は男性の姿で会社員をしている女装愛好家だ。ミッツマングローブや、マツコ・デラックスなど、女装家たちのメディア進出にはめざましいものがあるが、まだまだ一般的ではない。 “かわいい…!!”と注目を集めた、佳子さまの白のジャケット&ロングスカート姿 まだ後ろ暗さがある女装を愛する人たちと、彼らの趣味を理解できるパートナーを結び付けるマッチングウェブアプリが「女装と女子会Jojo(ジョジョ)」(以下、Jojo)だ。恋人や結婚相手を探す目的のマッチングサービスはいくつもあるが、この「Jojo」はどのような目的のユーザーが利用しているのだろうか。ウェブアプリのユーザーでもある“むささびさん”と、サービスの運営会社である株式会社Vent Huge代表取締役の岡本めぐみさん、運営代表の柊肇さんに話を伺った。 「女装を理解してくれる彼女を作れればもちろん良いが、それよりもコスメの情報交換や、ファッションの話ができる友達づくり」が目当てだという。 「女装することを認めてもらいながらやり取りできるのって、以前だったらあり得なかったって思うのです。女装をしていることに対する温度差や偏見がないのが良いですね」(むささびさん) 女装家にとっては、女装が趣味ということをオープンにしてつきあえるのが最大のメリットだ。女装はあくまで趣味で、恋愛対象は女性というむささびさん。女装家と出会いたいという女性と、ウェブアプリ内でどのようなやり取りをしているのだろうか。 「会社にいるときは(大っぴらには)メッセージを確認しにくいので、朝と仕事が終わったタイミングなど、1日に3、4回くらい見ています。気になった相手とは週に何度かメッセのやり取りをしていて、女装で使うウィッグの洗い方を聞いたこともあります。深夜までメッセの会話が盛り上がることも……。実は“今度、会おう”って約束している相手もいます」(むささびさん) 女装という趣味を理解してもらいたいと思うほど、のめり込んでいったきっかけは何だったのだろうか。 「ルームシェアをしている知人が、LGBTQの人たちを撮影する仕事をしていたのですが、僕は最初、LBGTQの人たちに対して否定的な態度を取っていました。そんな僕を見た知人に“そんなことを言っていたら人生、面白くないよ”って言われたことで、考えが変わるきっかけになりました」(むささびさん) その後、むささびさんは好奇心から、「Jojo」の事業会社が運営する東京都新宿区にある女装スタジオ「Studio RAAR」に一人で訪れた。そこでプロの手によって、初めて女装体験をした。「もともと目が細かったのがコンプレックス」というむささびさんだが、メイクやファッションで自分が変身する楽しさを味わった。そこから女装にハマっていった。 「初めて新宿二丁目に女装をして遊びに行ったときに、すごく褒められたのです。普段男性の姿で生きているとそういう機会も少ないですが、褒められるって精神的に満たされる行為なのだなということに気が付きました。そうしたら、“もっとかわいくなりたい”という気持ちが芽生えてきたのです」(むささびさん) 普段は、ファンデーションも塗らず素のままだというむささびさんだが、いまでは動画を見てコスメ情報を調べるのが楽しみだという。 「女装したときのメイクが楽しいです。初めて女装をしたときは、自分の顔がこんなに変わるんだって感動した。最新のメイク方法に驚きました(笑)」(むささびさん) 一方で昨年、筑波大学付属駒場中学校・高等学校の文化祭での女装による『ミス筑駒コンテスト』が、フェミニズムの観点からネットで炎上したのも記憶に新しい。岡本氏によると、女装家には共通する姿勢があるという。 「以前は地元で女装ができないという理由で、わざわざ他県から(都内の)スタジオまで来て女装をしている男性もいました。そういう意味では、近年はだいぶ世間の女装に対する意識も変わってきたと思います。女装をしたことがある男性は、女性へのリスペクトがあります。 女装をすることで、メイクにこんなに時間がかかるのだという点や、ヒールを履くことやスカートを着用して出歩くのがこんなに心許ないのだという気付きもあり、女性に対して尊敬の念や理解が生まれます。そういった初めての経験から、女性の楽しさだけではなく生きづらさを理解できるのかもしれません。また最近の女性は、あまり雄々しい男性やガサツな人を好まず、優しくて繊細で美意識の高い男性を好む傾向にあると思います。Jojoはそういう男性と出会えることも、女性ユーザーにとって良いのでしょうね」(岡本さん) 実際に、むささびさんの女装が自然であるからこそ、意図せず男性から性的な視線を向けられた経験をすることもあったという。 「普段は気に留められることもないのに、スカートをはいていることで、いままでに味わったことがない視線を感じました。言葉にするのが難しいですが、違和感や気持ち悪さを覚えたのです。女性は外出するだけで、男性からのこんな視線で不快な思いをしているのだなと分かり、自分自身も気を付けなければならないと感じました」(むささびさん) 男性の意識の多様化と、女性が求める男性像の変化こそが「Jojo」の誕生につながったのではないのだろうか。運営代表である柊氏はサービスの特性について、こう語る。 「もともとは、女装男子と女性のマッチングパーティーを開催していたのが発展して、ウェブアプリサービスになりました。ウェブアプリにすることで、それぞれが出会う確率が高まったと思います。ユーザーの割合は女装男子が6に対して、女性が4。 通常のマッチングアプリと同様に、女性の方がマッチングしやすいです。アプリの中で目的を選べるのですが、恋人を見つけるために利用している人もいますし、結婚相手を探している人もいます。また、女装男子だけではなく、女性ユーザーの中には男装が趣味の方もいらっしゃるので、お互いになかなか人には理解されにくいという悩みや、趣味を理解し合えるようです」(柊さん) 「Jojo」では、女装に理解ある女性と出会えたむささびさん。実生活ではどうなのだろうか。 「ルームシェアしている人たちにも、女装のことを伝えました。最初は驚かれましたが、僕が女装することを話すと、周りでも“やってみたい”という声も聞くようになりました。最近は、女性ものの衣類も手に入りやすくなったと思います。靴は海外サイズのものをネットで購入しています。服はセルフレジの普及で買いやすくなりましたね。普段は男性の姿で、GUなどで女性服を購入しています」(むささびさん) 男性であるむささびさんが女装を楽しむように、最近では男装をする女性もいるという。「Jojo」の利用者の中には、女装男子を求める男装女性もいるそうだ。もはや女装も男装も、着せ替えのようにファッションを楽しんでいるのかもしれない。「Jojoに精神的に救われている」と語るむささびさん。多様化の時代とうたわれている中、マッチングサービスにも新しい波が押し寄せている。 取材・文:池守りぜね
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