【社説】裏金で政倫審 証人喚問で真相の究明を
実態解明はまたも進まなかった。だからといって裏金事件の幕を引いてはならない。 自民党派閥の政治資金パーティー裏金事件で、政治資金収支報告書に不記載があった旧安倍派、旧二階派の計19人が衆参両院の政治倫理審査会に出席した。 いずれも公開で1人が1時間程度、弁明して質問に答えた。新たな証言はない。 この問題が決着しない理由は明白だ。裏金づくりを誰がいつ、どういう理由で始め、何に使ったのか。肝心なことが分かっていないからだ。 特に派閥の意思決定に関しては、そろって知らないと言うばかりだ。旧安倍派の稲田朋美氏は「派閥の多くの議員は幹部の決めたことに従っただけだという意識がある」と述べた。違法性の認識はなかったという。 他の議員も「裏金をつくる意図はなかった」「秘書から報告がなかった」と釈明し、知らぬ存ぜぬを繰り返した。 会計処理に疑問を持ったにもかかわらず、結果的に放置していた議員もいた。無責任と言うほかない。 衆院の政倫審は15人、参院は4人が出席した。自民は来年夏の参院選に影響が及ばないように、早く区切りを付けたいのだろう。出席に消極的な議員を党執行部がせき立てるようにして、開催にこぎ着けた経緯がある。 当該議員からは、党や内閣の役職に就けないことへの不満が出ているという。政倫審での説明は最低限の責務である。「みそぎ」になると思ってはならない。 旧安倍派の萩生田光一氏は2003年の衆院初当選時に派閥事務総長から、パーティー券の販売ノルマ超過分を政治活動費として返すとの説明を受けたと証言した。 パーティー券の販売収入を還流させる方法で、20年以上前から裏金をつくっていたことがうかがえる。当時の派閥会長は森喜朗元首相だ。 還流については、安倍晋三元首相が派閥会長だった22年4月に中止を指示した。再開したのは、安倍氏が死去した後の8月にあった幹部会合後とみられる。 幹部会合に出た塩谷立、下村博文、世耕弘成、西村康稔の各氏は今年3月の政倫審で「結論は出なかった」と述べた。一方、派閥の会計責任者は公判で「復活が決まった」と証言している。 野党は証言の食い違いを指摘し、自民に再調査を要求しているが、石破茂首相は「新たな事実が出たとは認識していない」とかわす。これまでと変わらず、自民が進んで解明する意欲は見えない。 裏金事件が発覚して1年になる。貴重な国会審議の時間をこの問題ばかりに費やすわけにはいかない。 来年1月からの通常国会で決着をつけたい。偽証罪に問われる可能性のある証人喚問で森氏、幹部会合の出席者4人、会計責任者に説明を求めるべきだ。
西日本新聞