月探査が切り拓く未来(7月7日)
1月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の月探査機SLIMが、日本初の月着陸を果たし、大きな話題になったことは記憶に新しい。4月には日本と米国の間で、日本人宇宙飛行士2名を月面に送る協定が締結された。一方、中国の探査機「嫦[じょう]娥[が]6号」が6月2日軟着陸、25日に世界で初めて月の裏側からの試料回収に成功した。いま、月に世界が熱い視線を送っている。元会津大学教員で、月の教育・啓発活動で著名な寺薗淳也先生に、月探査をめぐる世界の最新事情を解説してもらった。 世界が月への関心を再び高めたのは1990年代だ。米国が打ち上げた2機の小型科学探査機が、月の極地域に水の存在を確認したからだ。水があれば宇宙飛行士の滞在が容易になり、またロケットの燃料にも活用可能である。米露だけではなく、日欧中印の宇宙機関も月探査機を送り込んだ。 今も月探査の先頭を走るのは米国だ。半世紀ぶりに人類を月面に降り立たせる「アルテミス計画」は、2026年9月にも有人月面着陸を目指している。その後は日本人を含めた宇宙飛行士の月面着陸・滞在へと進む予定である。
アルテミス計画の特徴は、アポロ計画と異なり、日本を含めたパートナー国と共同で進めること、また民間企業を主体とした計画になっていることだ。有人宇宙船・月着陸船は米国の宇宙企業スペースXとブルーオリジンが開発を進めている。米国だけでなくイスラエルや日本のベンチャー企業も参入し、月は研究対象から実利用の場に変わりつつある。 一方、月探査において存在感を示すのが中国だ。継続的に月探査を実施し、全てを成功させている。中国は「国際月面研究ステーション」(ILRS)をロシアなどと共に構築し、2030年にも有人月探査を実施するとしている。 世界が月に目を向ける中で、日本でも官民がタッグを組んだ月への挑戦が進んでいる。2023年6月に閣議決定された宇宙基本計画でも、持続的な有人月面活動が宇宙開発の将来像に打ち出されている。「日本は民間企業がそれぞれの強みを携えて月探査に参入しようとしている。これは世界的に見てもユニークといえる。今後はそういった民間からのアプローチを官や学が支える。世界で5番目、ピンポイント着陸としては世界初の月面軟着陸を成功させたSLIMに会津大学の教員と学生が参加した。産学連携を強みとする会津大学には、産業界と足並みをそろえて月開発に貢献する未来も期待できる」と寺薗氏は語っている。
米露に次いで日本は「ひてん」「かぐや」でいち早く月を目指した。また、株式会社ispaceによる月面着陸挑戦など日本は産業界の取り組みも活発である。寺薗先生をはじめ「かぐや」に育てられた人材は日本中にいて、月の科学・探査・啓発活動を牽[けん]引[いん]している。会津大学は探査だけでなく大竹真紀子先生提唱の月火星箱庭構想(地元企業との連携事業)を文部科学省や福島県と共に推進している。大いに期待したい。 (角山茂章 会津大学元学長)