白血病と診断「え、俺死ぬの?」 アフリカで野球教えた経験、大病乗り越える糧に 沖縄の高校教師、約束した出版イベント実現
アフリカのザンジバル諸島で野球を教え、体験をまとめた本を刊行した直後、白血病に見舞われた。普天間高校教諭で元野球部監督の上原拓(たく)さん(41)は闘病を続けながら、入院直後に約束していたトークイベントを今月、実現させた。「自分の今の状況を悲観せず克服して、人生に生かしていけたら」と力強く語った。(社会部・勝浦大輔) 【写真】白血病の治療で入院中の上原拓さん(2023年12月ごろ) 異変を感じたのは昨年10月の後半ごろ。37・5~38度の熱が数日間下がらず、「風邪かな」と思っていたが、精密検査を経て急性リンパ性白血病と診断された。 「え、俺死ぬの?」「子ども、まだ5歳と1歳だけど」「保険入ってたっけ」「本当に そんなことあるのか」-。当初は頭が真っ白になったという。妻、両親、学校と順を追って状況を報告するうちに、少しずつ冷静さを取り戻した。 昨年11月から学校を休職して入院し、本格的な治療が始まった。抗がん剤の影響で吐き気、嘔吐(おうと)、食欲不振、手足のしびれ、倦怠(けんたい)感が付きまとった。 退院する今年3月までの5カ月間、病院のベッドの上から動けない日々。週2回、妻に会うことしか許されない孤独な闘いだった。家族、同僚、教え子らが交流サイト(SNS)などを通じて励ましてくれたことで「どうにか持ちこたえられた」という。 入院中に読んだがんサバイバーの手記にある「がんになって良かったとは思わない。ただ、悪いことだけではない」という言葉がふに落ちた。「仕事の捉え方、家族との過ごし方…。死と向き合ったことで、自分の生き方や行動が変わってきている。悪いことだけではなかった」と自分を見つめ直している。 本の刊行記念トークイベントの誘いには、「退院したらぜひやりたい」と答えていた。ついに実現させたのは今月4日、ジュンク堂書店那覇店。まだゆっくりとしか歩けず本調子には程遠いが、そんなそぶりは見せなかった。 2014~16年に国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊員として渡ったアフリカ東部タンザニアのザンジバル諸島での経験を笑いを交えて語り、会場を沸かせた。「同じ病でくじけそうになっている人がもしいるのなら、自分の姿を見て少しでも前を向いてもらいたい」と願う。 「ザンジバル球児に学ぶ世界を変える方法」(かもがわ出版)にまとめた現地での経験は、大病を患った今を乗り越える糧になっているという。「うまくいかないことが多かったのも一緒。良い時は調子に乗らず、悪い時は腐らない。できることをコツコツやるだけです」 現在は週1回の通院で治療を続ける。年明けには復職したいと話す上原さんは、しっかりと未来を見据えている。