アングル:中国の住宅在庫買い取り制度、デベロッパー支援効果期待できず
Clare Jim Ziyi Tang [香港/北京 10日 ロイター] - 中国政府は5月、地方政府が住宅在庫を買い取り、低所得者向けの住宅に転換する措置を打ち出した。しかし規模が小さく、価格が抑えられる可能性もあるため、資金繰りに窮する不動産デベロッパーの支援にはつながりそうにないとみられている。 政府は、危機に瀕した不動産セクターを支えるため、住宅在庫買い取りの資金として3000億元(6兆4865億円)を貸し出す制度を発表した。銀行は、これを利用して計5000億元を低利で地方の国有企業(SOE)に融資し、SOEは売れ残っている完成物件を「妥当な価格」で買い取って低所得者向け住宅に転換することが期待されている。 しかし一部の民間デベロッパーは、自社のプロジェクトが融資の対象に選ばれる可能性はほとんどないと考えている。貸出制度の規模が不十分な上、住宅が入手可能な大きめの都市でしか実施されない見通しだからだ。SOEが提示する価格も、非常に低くなりそうだという。 こうしたデベロッパーの慎重姿勢は、政府にとって大きな壁となりそうだ。政府が過去2年間に次々と打ち出した措置は、いずれも不動産セクターの回復につながっていない。 広州市の街、新塘鎮は5月30日、地方政府の先陣を切って住宅在庫の買い取りを呼びかける通告を出した。 報道によると、新塘鎮の政府は住宅を原価で買い取る方針。原価は市場価格より20─30%ほど低いが、一部のデベロッパーは、予想よりはましだ受け止めている。 デフォルト(債務不履行)に陥った上海のデベロッパーの上級幹部は、他の都市も新塘鎮と同様の提案を行うなら、関心があると語る。ただ、「(買い取り価格が)開発時の融資を十分カバーできないとしたら、当社はどうやってその融資を返済すればいいのか。融資銀行も同意してくれないだろう」と案じている。 一方で、シティとバンク・オブ・アメリカのアナリストらは、SOEが小幅ながら利益を上げるには、価格を50%引き下げる必要があると指摘する。低所得者向け住宅は通常、民間物件より10─50%安く販売されているからだ。 仮にデベロッパーが完成物件をSOEに売却して利益を出せたとしても、売却代金を債務返済ではなく既存プロジェクトの完工に回すよう地方政府から義務付けられる可能性がある。 別のデベロッパーの幹部は「上場企業である当社の助けにならないし、オフショア債務の返済にもつながらない」と嘆く。 調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの推計では、平均的な市場価格で5000億元分を買い取った場合、住宅在庫全体の12%に相当する。ディスカウント価格で買い取れば20%相当になる。 またS&Pグローバル・レーティングスは、在庫を低所得者向け住宅に転換すれば、低価格での売買が増え、住宅全体の価格が押し下げられると予想している。 <執行リスク> S&Pのクレジットアナリスト、エスザー・リュウ氏は「恩恵を受けるのは困窮した一握りのデベロッパーだけだろう。こうしたデベロッパーが直面する問題は、建設を完了することだ。これらの企業はあまり多くの完成物件を抱えていない」と語った。 一部の銀行関係者は、買い取り制度は資産の質の悪化につながりかねないと指摘する。SOEは、銀行融資を返済できるだけの利益を生み出すのに苦労しそうだからだ。 今回の制度で、銀行は中国人民銀行(中央銀行)から金利1.75%で資金を借り、それをSOEへの融資の60%に充てる。アナリストの試算では、SOEへの融資利率は2.5%前後と、中国の平均的な賃貸利回りと同水準になりそうだ。 最初に登場した上海のデベロッパー幹部は「これは不動産セクターにとっては良い話だが、SOEと銀行にとっては悪い。実質的に、リスクがSOEと銀行に移転されるからだ」と話した。 当然ながら、銀行と地方政府はリスクを嫌う。 人民銀行は昨年2月、8都市の地方政府を対象に、住宅在庫買い取りのために合計1000億元を融資する措置を打ち出したが、今年3月末時点で20億ドル分しか利用されていない。 クレジットサイツの上級クレジットアナリスト、ザーリナ・ゼン氏は「銀行と地方SOEが信用、投資リスクを全面的に担わざるを得ないため、執行リスクが高くなるだろう」と指摘した。