パリ在住・文化ジャーナリストが語る、人生のヒントが見つかるフランス映画【後編】
ヌーヴェル・ヴァーグ以降
ヌーヴェル・ヴァーグ以後、80年代に登場した新感覚映像派と呼べるような監督が、レオス・カラックス、ジャン=ジャック・ベネックス、リュック・ベッソンら。カラックスは『汚れた血』(1986年)『ポンヌフの恋人』(1991年)で、当時のパートナー、ジュリエット・ビノシュとともに、新しいフランス映画を代表する顔となった。ベネックスはデビュー作の『ディーバ』(1981年)、フランスで大ヒットした狂熱恋愛映画の金字塔『ベティ・ブルー』(1986年)で有名に。ベッソンは、こちらも社会現象となるほどヒットした『グラン・ブルー』(1988年)で地位を確立し、その後『ニキータ』(1990年)『レオン』(1994年)といったアクション路線で世界的に成功を収める。 その後に登場した個性派は、ジャン=ピエール・ジュネ、フランソワ・オゾンら。ジュネは日本でも大ヒットした『アメリ』(2001年)でお馴染み。アーティスティックな映像と個性的なキャラクターたち、尖ったユーモアでファンが多い。 オゾンは一作ごとにスタイルを変え、さまざまな分野に挑戦する鬼才。ほぼ1年に1本映画を撮る多作ぶりで、現在のフランス映画界の中枢を占める。孤独な熟年女性の幻想をしっとりと描いた『まぼろし』(2000年)、カトリーヌ・ドヌーヴをはじめ国民的俳優たちを集めたコメディ『8人の女たち』(2002年)、十代の少年ふたりの一夏の情熱的な恋を描いた『Summer of 85』(2020年)など、作品によって魅力もさまざま。 さらに【前編】で挙げたセドリック・クラピッシュや、ハリウッドでリメイクもされた『最強のふたり』(2011年)のエリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュのコンビも、現実に根ざした共感しやすいドラマを撮る監督として人気がある。 フランス映画界は、他国に比べ女性監督の数が多いことでも知られるが、ここ数年はとくに各国の映画祭で賞を取るような実力派の活躍が目立つ。 1960年代の禁じられた堕胎を扱いヴェネチア国際映画祭で最高賞に輝いた『あのこと』(2021年)のオードレイ・ディヴァン、18世紀の女性画家とモデルの禁じられた恋を、瑞々しく叙情的に描いた『燃ゆる女の肖像』(2019年)のセリーヌ・シアマ、ともにカンヌ国際映画祭で最高賞を受賞した『TITANE チタン』(2021年)のジュリア・デュクルノーと『Anatomie d’une chute』(2023年)のジュスティーヌ・トリエなど。 作風は異なれど困難なテーマに果敢に挑戦していくバイタリティは共通している。彼女たちの活躍が、今後のフランス映画に一層、厚みを与えていくことはたしかだ。 ジャン゠ピエール・ジュネ監督 『アメリ』(2001年) モンマルトルを舞台に、空想好きな女性アメリの日常と不器用な恋を描く。主演のオドレイ・トトゥの髪型やファッションも話題に。 © 2001 UGC IMAGES-TAPIOCA FILM-FRANCE 3 CINEMA-MMC INDEPENDENT-Tous droits reserves フランソワ・オゾン監督 「8人の女たち」(2002年) クリスマスを祝うために家族が集まった大邸宅。大雪の夜、一家の主人が背中を刺されて死んでいた。屋敷に集まった8人の女性のうち、誰が犯人なのか。 © 2002 STUDIOCANAL - France 2 Cinema U-NEXTで配信中 オードレイ・ディヴァン監督 『あのこと』(2021年) 60年代、中絶が違法だったフランスで、大学生アンヌは予期せぬ妊娠をしてしまう。ノーベル賞受賞作家、アニー・エルノーの実体験に基づいた衝撃作。
『クウネル』1月号掲載、文/佐藤久理子
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