父が「特別支給の老齢厚生年金」をもらっているそうです。まだ65歳前ですが、「普通の年金」とは違うんですか? 金額が多かったりするんでしょうか?
一般的な老齢厚生年金の支給開始年齢は65歳ですが、一定の要件を満たした人は65歳前から特別支給の老齢厚生年金を受給できます。本記事では、特別支給の老齢厚生年金とは何か、どうしてそのような制度ができたのかについて、さらに対象者や年金額など通常の老齢厚生年金と違う点についても解説します。 ▼夫婦2人の老後、「生活費」はいくら必要? 年金額の平均をもとに必要な貯蓄額も解説
特別支給の老齢厚生年金とは?対象者は?
昭和60年の法改正により、厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられました。人によっては法改正がライフプランを根底からくつがえすことになりかねません。そのような事態を防ぎ、年金受給開始年齢を段階的にスムーズに引き上げるためにも、受給開始年齢を20年かけて段階的に引き上げる特別支給の老齢厚生年金の制度が作られました。 特別支給の老齢厚生年金を受け取るためには以下の要件を満たしている必要があります。 ・昭和36年4月1日以前に生まれたこと(女性の場合は昭和41年4月1日以前) ・老齢基礎年金(国民年金)の受給資格期間があること ・厚生年金加入期間が1年以上あること ・生年月日に応じた受給開始年齢に達していること
特別支給の老齢厚生年金の受給金額は?
特別支給の老齢厚生年金には報酬比例部分と定額部分があり、報酬比例部分は65歳以後の老齢厚生年金に、定額部分は老齢基礎年金に相当します。定額部分の計算式は「1701円(昭和31年4月1日以前生まれの人は1696円)× 生年月日に応じた率× 被保険者期間の月数」となり、老齢基礎年金の金額より定額部分の額のほうが多いことが一般的です。 しかし定額部分が老齢基礎年金よりも高い人は、65歳以降の老齢厚生年金に経過的加算(定額部分から老齢基礎年金を引いた額が加算)が受けられます。また特別支給の老齢厚生年金は生年月日と性別に応じて、図表1のように受給開始年齢が異なります。 図表1
日本年金機構 老齢年金ガイド令和6年度版
通常の老齢厚生年金と違うところはあるのか?
特別支給の老齢厚生年金は通常の老齢厚生年金と比較して受給開始年齢以外に何か違いはあるのでしょうか? ■特別支給の老齢厚生年金は繰り上げや繰り下げの制度がない 特別支給の老齢厚生年金には繰り上げや繰り下げの制度はありません。仮に63歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できる人が特別支給の老齢厚生年金だけを繰り上げて60歳から受給することはできませんし、繰り下げもできません。 仮に65歳まで申請を忘れていた場合は63歳から65歳までに貰えたはずの年金が一括で支給されます。ただし通常の老齢厚生年金を繰り上げて60歳から貰うことは可能ですし、65歳到達後に通常の老齢厚生年金を受給するときは繰り下げも選択できます。 ■特別支給の老齢厚生年金は雇用保険の給付と調整される 特別支給の老齢厚生年金を受給している人が雇用保険の失業給付を受給する場合、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止となります。また雇用保険の高年齢雇用継続給付を受給する場合も年金が一部支給停止されます。 65歳から受給できる通常の老齢厚生年金にこのような調整はありませんが、繰り上げ受給により65歳未満で老齢厚生年金を受給する場合は特別支給の老齢厚生年金と同様に年金が全部または一部支給停止となります。 ■特別支給の老齢厚生年金独自の仕組み 昭和16年(女性は昭和21年)4月2日以後に生まれた人でも、次のいずれかに該当する場合は特例として報酬比例部分の受給開始年齢から報酬比例部分と定額部分を合わせた特別支給の老齢厚生年金が受給できます。 ・厚生年金保険の被保険者期間が44年以上の人(長期特例) ・障害の状態(障害厚生年金の1級から3級に該当する障害の程度)にあることを申し出た方(障害特例) ・厚生年金保険の被保険者期間のうち、坑内員または船員であった期間が15年以上ある方 長期特例の44年以上は共済組合と厚生年金などの複数の被保険者期間を合算せずに計算します。また長期特例も障害特例もすでに被保険者資格を喪失(退職)している場合に限られますので、厚生年金保険加入者は条件に該当しても年金は支給停止となります。
まとめ
特別支給の老齢厚生年金は受給開始年齢が生年月日で違ったり、繰り上げ・繰り下げ制度がない、65歳未満で受給するために雇用保険との調整が起こりやすかったり、独自の特例が存在するなどと違うところも多々あります。不明な点があればお近くの年金事務所などで相談しましょう。 出典 日本年金機構 特別支給の老齢厚生年金 日本年金機構 老齢年金ガイド 令和6年度版 執筆者:FINANCIAL FIELD編集部 ファイナンシャルプランナー
ファイナンシャルフィールド編集部