【遠藤航・分析コラム】なぜ早い時間帯で交代?日本代表MFが伝統の一戦で輝けなかった理由とは
プレミアリーグ第32節、マンチェスター・ユナイテッド対リバプールが現地時間7日に行われ、2-2の引き分けに終わった。この試合で遠藤航は先発出場。レギュラーに定着してからはほとんどの試合でフル出場していた中で、今節は69分での交代となった。なぜ監督は早い時間帯で日本代表MFを下げる決断を下したのだろうか。(文:安洋一郎) 【動画】マンチェスター・ユナイテッド対リバプール ハイライト
●伝統の一戦は2-2の引き分けに 逆転でのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場圏内を目指すマンチェスター・ユナイテッドと優勝を目指すリバプール。イングランドが誇る名門クラブ同士の対決は、両者にとって痛恨の2-2の引き分けに終わった。 この一戦で遠藤航は先発メンバーに名を連ねた。日本代表MFは前節シェフィールド・ユナイテッド戦を軽い打撲のため欠場を余儀なくされたが、無事に復帰を果たしている。 しかし、そのプレー内容はベストとは言えないものだった。実際にユルゲン・クロップ監督は69分という早い時間帯で彼をベンチに下げている。1点のビハインドを負った直後で攻撃的にいかなければならなかったとはいえ、これまでの傾向では追いかける展開でも遠藤をピッチに残していた。 というのも、彼の守備から攻撃への切り替えはショートカウンターを狙うリバプールに欠かせない武器であり、必ずしも「遠藤をベンチに下げる=攻撃的な布陣」とはならない。それを承知の上で交代を決断したのは指揮官の中で理由があったのだろう。 実際に遠藤のパフォーマンスが劇的に向上した昨年12月に行われたマンチェスター・ユナイテッドとの第17節以降では最速の交代だった。なぜ、クロップ監督は早いタイミングで日本代表MFをベンチに下げたのだろうか。 ●明暗分かれた両軍の中盤 この試合でマンチェスター・ユナイテッドとリバプールの中盤、どちらが機能していたかと問われれば答えは明確だろう。ホームチームのスコアラーはブルーノ・フェルナンデスとコビー・メイヌーという2人のMFであり、1対1の局面でも彼らがリバプールの中盤3枚を上回った。 両軍は共に[4-2-3-1]をベースに布陣を組んでおり、ゲームスタート時にマンチェスター・ユナイテッドはカゼミーロ、メイヌー、ブルーノ・フェルナンデスの3選手、リバプールは遠藤とアレクシス・マクアリスター、ドミニク・ソボスライの3選手が中盤を形成していた。 その中で彼らの地上戦勝率にフォーカスを当てると、マンチェスター・ユナイテッドは約67%の勝率(カゼミーロ(4/8)、メイヌー(8/9)、ブルーノ・フェルナンデス(6/10))を誇ったのに対して、リバプールは約36%(遠藤(3/9)、マクアリスター(5/10)、ソボスライ(1/6))に留まった。 全ての局面で彼ら同士がマッチアップをしたわけではないが、マンチェスター・ユナイテッドのMF陣が攻守ともにデュエルで上回ったのは試合を見ていても明らかだった。遠藤がフィルター役となって好守備から攻撃の起点となったシーンもあったが、リバプールが絶好調の試合と比較すると少なく、逆に中盤を経由したマンチェスター・ユナイテッドのカウンターをチームとして止められない場面が目立った。 それは50分にブルーノ・フェルナンデスが同点ゴールを決めてからより顕著になった。この時間から逆転ゴールを許す67分までの17分間はマンチェスター・ユナイテッドのインテンシティがかなり高く、リバプールの中盤はほとんどフィルターとして機能することなく攻撃を受け続けた。実際にホームチームが試合を通して放った9本のシュートのうち8本がこの時間帯で生まれている。 ●なぜ遠藤がフィルターとして機能しなかったのか 遠藤自身もあっさりとメイヌーやブルーノ・フェルナンデスに個人技でかわされるシーンもあったが、どちらかと言えば責任はチームとしての守備にあるだろう。 遠藤が活躍した試合は、いずれも彼が前向きに守備することができている。すなわち、前線からの連動したプレスがハマり、日本代表MFの守備範囲を限定させることで、そこにアジャストしてボールを奪えていた。 一方で、今節マンチェスター・ユナイテッド戦はチームとして前線からのプレスがいつもと比べると消極的だった。要所では高い強度を誇る場面もあったが、鬼気迫るようなリバプールが理不尽さを発揮する試合と比較をすると緩かったのは事実だろう。そのため遠藤が高い位置でボールを奪い、そのまま攻撃の起点となったシーンはかなり少なかった。 保持の局面でも効果的な縦パスやフィードを送ったシーンもあったが、パス成功率は先発出場したプレミアリーグの試合ではワーストの79%に留まっている。 これらのデータやチームの状況を見れば、この試合で遠藤が絶対的に機能していたとは言い難い。本人としても累積警告を気にしていたのかタックルに飛び込まない場面もあり、存在感は過去の試合と比較すると希薄だった。 ただ、繰り返すが今節のパフォーマンスは彼に責任があるわけではない。ミッドウィークに行われるアタランタとのUEFAヨーロッパリーグ(EL)準々決勝で再び印象的なパフォーマンスを披露する可能性も十二分にあるだろう。 リバプールは今節引き分けに終わったことで首位をアーセナルに譲り、プレミアリーグでの自力優勝の可能性がなくなった。ただ、シーズン終了までは約2ヶ月ある。日本代表MFにはチームとともに、最後まで走り抜けてもらいたい。 (文:安洋一郎)
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