砂浜に設置された屋外の特設舞台（カメラ・有野　博幸）

　歌舞伎俳優の中村勘九郎（４２）、中村七之助（４１）が２２日、鹿児島・硫黄島で三島村歌舞伎「平家女護島（へいけにょごのしま）　俊寛」を２０１１年以来、１３年ぶりに上演した。 　＊　＊　＊　＊ 　圧巻の大自然を味方につけた。都会のようなネオンのない硫黄島の夜は暗闇と静寂に包まれる。砂浜の舞台後方にそびえる断崖がライトアップされ、その足元から、勘九郎演じる俊寛がつえを手に登場した。打ち寄せる波音は天然の鳴物（ＢＧＭ）、上空を見上げれば満天の星が輝いている。 　島に取り残された俊寛が赦免船を見送る場面は、実際の船を使い、リアルに演じた。俊寛が「おーい！」と叫べば、船に乗った少将（勘太郎）らが「おーい！」と応えるコール＆レスポンスが実現。さらに俊寛が「おーい！」と叫びながら、客席に駆け込むダイナミックな演出で盛り上げ、岩場に登って呼びかけるクライマックスの名場面に続いた。 　ゆかりの地とはいえ、興行として考えれば大劇場の方が集客を期待できる。それでも中村屋はあえて、人口わずか１２０人の島に訪れた。その理由は、役者としての飽くなき探究心だ。この日、役者たちは現地でしか味わえない、貴重な経験値を手にして、５００人の観客と感動を共有した。 　何より観客を楽しませ、自分たちも楽しむ中村屋スピリッツに触れ、観劇の喜びを改めて実感した。 　◆硫黄島　鹿児島市内から南西に約１００キロ。同県三島村の中央に位置する火山島。東西６キロ、南北３キロで別名・鬼界ケ島。定期船「フェリーみしま」で鹿児島港から約４時間。島の北東部にある硫黄岳は活火山で頻繁に噴煙を上げる。畜産が盛んで、人口約１２０人に対して牛は約１６０頭。小中学校、温泉はあるが、コンビニ、スーパー、レストランは１軒もない。