【空港怪談】搭乗口、誰もいないはずの背後から手が伸びて…!?事故が起こりかけた日と重なる奇妙なサイン
奇妙な符牒
それから、1カ月が過ぎた。空港全体で、爆発物の検知といたずら電話に対する警戒レベルが上がり、セキュリテイゲートはいつにも増して長蛇の列。お客様からの苦情も入っていたが、安全のために必要な措置とはいえ、申し訳なかった。 待たされ、荷物を人に細かく見られる不快感から、お客様はスタッフに不満をぶつけた。仕方がない。急いでいるときや、楽しい気分のときに、水を差されるようなもの。 私たちは、そのたびに平身低頭で、それでも安全のためだと根気よく説明した。 飛行機の運航というのは、最先端の技術を詰め込んでようやく叶うもの。しかし外から思う以上に、ヒューマンエラーの可能性があり、そのうえこうした卑劣な行動のターゲットにもなりやすい。 だからこそ、それを防ぐという強い気持ちと、チェック、ダブルチェックの意気込みが必要だ。 人の力は侮れない。安全に対する情熱なくして、どんな技術を集めても、お客様を守ることはできない。私は10年、毎日この場所にいて、そのことを人よりも知っている。だからどんなにハードでも、頭を下げて、安全のための手順を踏んだ。 会社は、私たちベテランスタッフがチェックする時間をたくさんとれるように、しばらくはバックオフィスで経験を積んだスタッフしかできない仕事を割り振ってくれた。 そして今日は久しぶりに搭乗口でゲートの責任者としてシフトに入っている。 ――おお、例の搭乗口ね。久しぶりじゃないの。
小説/佐野倫子 イラスト/Semo 編集/山本理沙
佐野 倫子