坂東龍汰を自閉スペクトラム症の子の親が絶賛。『ライオンの隠れ家』松本Pが語る、役づくりの裏側
「特定の誰かはモデルにしない」坂東龍汰の役づくり
――これまで何度もご一緒されたうえで、今回の「みっくん」はいかがでしたか。 松本P:現場ではもうみっくんにしか見えてないです。役づくりのため、ASD監修をしてくださっている「さくらんぼ教室」(2歳から社会人までを対象とする、発達障がいの人のための専門塾)に、坂東さんと何度も伺わせてもらいました。 みっくんと同じくらいの社会人クラスのASDの方々と会ったんですが、皆さんすごくフレンドリーで、「テレビ局の人が来た!」といつも盛り上がって話しかけてくださって、坂東さんともすごく仲良くしてくださいました。 一緒にコミュニケーションをとったり触れ合ったりする時間が長かったからこそ、本や映像資料で学んだものだけでなく、お会いした方々のその素敵な部分もしっかり伝えたいという思いで、みっくんに落とし込んでいるんだろうなと、クランクインした日に思いました。 ――SNSでは、実際にASDのお子さんをお持ちのお母さんなどが坂東さんの役作りのリアルさを絶賛されていますね。 松本P:同じASDでも、発達障がいの有無、語彙の多さ、こだわりや趣味もみんな違うので、ステレオタイプにしすぎないようにしよう、という話は坂東さんとしていました。でも、誰もが「私が生きてきた中で出会ったASDのあの子と通じる部分があるかも」と思ってほしいなという思いもあったので、その塩梅が難しいよね、とも話していました。 ――坂東さんがみっくんをやれると感じたのはどのあたりからでしたか。 松本P:初日からみっくんでした。何回もさくらんぼ教室に通う中で、色んな方と出会い、たくさん学んだからこそ、「特定の誰かをモデルにするのではなく、自分の中ではみっくんはこのバランスかなというものを作りますね」と言っていました。
ドラマにおけるASDの描き方が、ここ10年で変わった
――特定の誰かをモデルにすると、ある一面ではリアルであっても、イメージを固定し、当事者を傷つける原因になることもありますもんね。 松本P:そうですね。今回、当事者やそのご家族に不快な思いをされることを避けるためにも、さまざまな専門家にご協力いただきました。監修の伊庭葉子先生は台本を複数人の目でチェックできるようさくらんぼ教室の先生たち数人からなる「ライオンチーム」を作ってくださったり、伊庭先生のご紹介でASDの権威と言われている本田秀夫先生に勉強会を開いていただいたり、ドラマ『マラソン』(2007年)で二宮和也さんの演技の監修をされていた、精神心理学などにも詳しい中京大学の辻井正次教授にもお話を伺って、「いまのASDの描き方」を教えてもらいました。 ――それはどういうことでしょう。 松本P:『光とともに…~自閉症児を抱えて~』(2004年/日本テレビ)以降のこの10年間は、こういう障がいがあるということを世の中に紹介する側面が大きかった。だから、ステレオタイプ的に描かれることも多かったそうです。でも、今回は洸人を主人公とし、ASDの人が特別な存在として真ん中にいるのではなく、登場人物の1人としている世界を描きたいという思いがありました。 それに、今は療育もすごく発展しているので、困難にぶつかったとき、自分での対処の仕方も家族の対処の仕方も変わってきているし、障がいとの付き合い方もが変わっている。みんな当たり前のようにスマホを使うし、家族ともスマホやパソコンで連絡を取り合うというのもがいまの描き方のひとつだと教えていただきました。 ――ちなみに、坂東さんは普段はどんな方なんですか。 松本P:芸能人っぽくない方です(笑)。天真爛漫で、誰にでも平等で、壁がなく、言いたいことも自由に言うし、ちゃんとわきまえるところもある。たぶん、人間が大好きなんだろうなと思います。 ◇続く中編【柳楽優弥の「俳優としての求心力」。『ライオンの隠れ家』に実力派キャストが揃い踏みした背景】では、主演の柳楽優弥さん他、実力派俳優が勢揃いしている本作のキャスティングが実現した理由について詳しく聞いた。
田幸 和歌子(フリーランスライター)