『ミッドサマー』超え! 超人気YouTuberから映画監督に。注目ホラー映画を手がけた兄弟監督が語る、SNSのノウハウを取り入れたワケ
スピード感の理由は「観客を退屈させたくない」
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』で驚かされたのが、そのスピード感だ。降霊が描かれる作品は、霊が出現するまでの不穏な空気で観客の恐怖心をあおるものだが、本作では「手」を握った瞬間に霊が出現する。観客を一瞬たりとも待たせないつくり方は、TikTokをはじめとするショート動画を彷彿させる。やはりYouTubeやTikTokで培った経験が生かされているのだろうか。 「YouTubeと同じようにエンゲージメントを維持するために、この作品もシーンを動かし続けています。ただ、映画では緩急があるので、スピード感を維持したまま最後まで突っ走ることはできません。とはいえ、僕らは観客を退屈させたくないので、YouTubeなどで得ていた知見を総動員しています。最初の20分にはホラー要素は入れていませんが、そこでキャラクターの関係はすべて見せています。そして第2幕に入ると、そこからは怒涛の展開が待っています。とにかく観客の時間を無駄にしたくないのです」SNSを意識させるのは、速さだけではない。降霊術そのものを若者がエンタメコンテンツとして消費しているのも今らしいと言えるだろう。 「この映画に登場するようなことが、今の10代の間で流行したらどうなるだろうかと考えました。WEBの世界に浸る子どもたちは、超自然的なものに夢中になったり、ウィジャボード(欧米版コックリさんのようなもの)をやりたいと思っていたりします。誰もが『いいね!』を求めて面白いものを探している。そのすべてを肯定できるわけではありませんが、エンゲージメントを得るためなら降霊術だって喜んで撮影するだろう……そう考えてストーリーを構築しました」 “今”を取り入れるダニ―&マイケルは、テストスクリーニングをオンラインで行い、多くの友人や家族の反応をリアルタイムで見ていったという。
犬とのシーンは、その場にいる全員が演じた
本作には、憑依された男性が犬と激しいキスをするシーンが含まれている。観ていて非常に複雑な気持ちになる描写だが、このシーンの撮影はさまざまな工夫を施したのだと、ダニ―&マイケルは語る。 「あのシーンで俳優がキスした犬は、パペットです。犬が舐めているのは板で、ポストプロダクションでふたつの映像を組み合わせました」 ハリウッド映画の制作現場において、動物の扱われ方は厳しくチェックされ、極力負担のない環境をつくることが重要視される。だが、本作の現場でケアされたのは犬だけではなかった。 「ダニエル役を演じたオーティス・ダンジの心のケアもしました。彼の気持ちを理解できるように、その場にいるみんなが彼と同じシーンを演じました。俳優だけでなく、プロデューサーも、監督である僕らもです」 犬とのキスシーンだけにとどまらず、リハーサルでは、ほぼ全ての憑依のシーンで同じことが行われた。そのため、互いの演技を見ながら演技をブラッシュアップしていったのだと振り返る。 かなり時間がかかる方法だが、「絆を深めることは本当に大事でした。(リハーサルを経て)撮影本番のときにはすでにお互いのことを十分に知った状態になっていたので、彼らの関係性の歴史を作品に落とし込めることができたと感じています」 数々のヒット作を送り出してきた映画会社A24が配給していることでも大きな話題となり、北米で公開されるや否や予想興行収入の2倍を叩き出した『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』。もともとはかなり過激な内容だったそうだが、マイルドにすることで裾野を広げることに成功した本作だが、それでも刺激を求める昨今のオーディエンスを満足させる仕上がりになっている。 日本公開は12月22日(金)。ぜひとも劇場で堪能してもらいたい。
『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』
監督/ダニー&マイケル・フィリッポウ 出演/ソフィー・ワイルド, アレクサンドラ・ジェンセン、ジョー・バード ほか 2023年 https://gaga.ne.jp/talktome/
文:中川真知子