インフルエンサーの推奨で大流行、「奇跡のやせ薬」オゼンピックに、科学者たちが警鐘…鬱など引き起こすリスク指摘
「関連性は確認できないとFDAは発表している」と製薬会社
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の精神神経科学教授で、同大学特別フェローのマイケル・ブルームフィールド(トベイキらの研究には関与していない)も、同じ見方をしている。 「副作用の潜在的重症度を考えれば、さらに研究が必要だという著者らの意見に賛成だ」と、ブルームフィールドは本誌に語った。「どんな人が特にリスクが高いのか、どうすれば自分の身を守れるのか、後続研究なしに理解するのは現段階では難しい」 「鬱や自殺願望が以前から存在する場合、こうした潜在的副作用がより起こりやすい可能性はある。だが、答えはまだ分からない」 ただし、精神科的副作用の発生率は極めて低いと、ブルームフィールドもトベイキも強調する。有害事象を体験した「患者に、薬剤使用開始時に精神的な問題があったのかという点もはっきりしない」と、トベイキは話す。「注意深く解釈する必要がある」 英グラスゴー大学のナビード・サター教授(代謝医学)に言わせれば、明確な比較が存在しないため、精神面での影響が薬剤と関連しているのか、それとも単なる偶然かを見極めるのは困難だ。 「同様の特質を持つ人が、非GLP-1治療法を開始した場合の精神科的リスクと比較する基準がない」と、サターは本誌に語る。「一般的に精神症状はまれなため、ある種の比較基準がなければ真実には近づけない。頑健性のある研究をさらに行う必要があるが、科学的クオリティーが高く、確固とした比較が可能な研究であるべきだ」 最近、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部が実施した大規模研究で、こうした比較が行われたが、セマグルチド製剤使用後に自殺願望が起こるリスクの上昇は確認されなかったと、サターは指摘する。「同様の研究をさらに実施すれば有益だろう」 トベイキらの研究結果について本誌は、オゼンピックとウゴービを発売するデンマークの製薬大手ノボ・ノルディスクにコメントを求めた。 「自発的に報告された有害事象のデータ分析は有益だが、固有の限界があるため、関連性や因果関係について結論を出すことは不可能だ」と、同社広報担当者は本誌宛ての声明で述べている。「自殺願望や自殺行動、その他の精神科的有害事象とセマグルチドの関連を示す信頼性のある証拠を、当社は把握していない」 「FDAは先頃、『これらの医薬品の使用が自殺願望・自殺行動を引き起こす証拠は(同局の)予備的評価では見つかっていない』『大規模なアウトカム研究や観察研究を含む臨床試験の評価でも、GLP-1受容体作動薬の使用と自殺願望・自殺行動の関連は確認されていない』と発表した」 「当社は製品の臨床試験や実際の使用に関するデータを継続的に観察し、患者の安全や医療関係者への適切な情報提供を確保するため当局と緊密に協力している」 「用法を守り、資格を持つ医療専門家の監督の下で使用する場合において、ノボ・ノルディスクはセマグルチド、および当社のその他のGLP-1受容体作動薬の安全性と効果を支持している」 これに対し、トベイキは自分たちの研究結果は「適応外」使用をめぐるより幅広い問題を扱っていると主張する。「必要性がないのに、痩身目的で使用するケースが世界各地で発生している。オンラインや違法市場で販売されている偽造品には、有効成分が含まれていない可能性がある。処方箋なしで入手できるものもあり、使用者の健康に重大なリスクをもたらしている」 「これらの医薬品は2型糖尿病や肥満症の治療に有益で効果的だが、医療専門家の監督下に限って使用すべきだと訴えたい。新しい薬なのだから、精神衛生上の問題を含め、あらゆる潜在的副作用を注意深くチェックする必要がある」
パンドラ・デワン(本誌サイエンス担当)