多発する太陽光発電所のケーブル盗難被害、警察庁が金属買取の規制改革を検討
太陽光発電所等から、銅ケーブル等の金属を盗難する犯罪が近年大きく増加している。こうしたいわゆる「金属盗」は、警察庁が統計をとりはじめた令和2年(2020年)以降増加が続いており、2023年の認知件数は16,276件、検挙件数は3,226件、被害総額は約133億円に上る。一方、金属盗の検挙率は20~30%程度に留まっている。 図2.金属盗の被害状況(品目別・材質別) 出典:金属盗対策に関する検討会 太陽光発電所のケーブルが盗まれた場合、当該発電所の事業者にケーブル復旧工事や売電収入喪失といった直接的な損失が生じるだけでなく、盗難の増加により、損害保険料の値上げや新規ファイナンスの困難化といった、業界全体への影響も生じている。これは、太陽光発電の新規案件開発を困難とし、国の再エネ目標の達成を困難とするおそれもある。 このため警察庁では、新たに「金属盗対策に関する検討会」を設置し、盗品の流通防止や、犯行に使用される道具に関する法規制の在り方も含めた、金属盗対策の検討を開始した。
金属盗の発生状況とその要因
2023年の金属盗認知件数16,276件を地域別に見ると、その6割が関東に集中しており、茨城(2,889件)、千葉(1,684件)、栃木(1,464件)、群馬(1,437件)、埼玉(1,172件)の上位5県で、全体の53%を占めている。なお、太陽光発電所のケーブルに限ると、全体の92%が関東に集中している。 警察庁の統計では様々な金属製品を対象としているが、2023年の被害品のうち、「金属ケーブル」が件数ベースで約55%(太陽光発電所のケーブルは33%)、金額ベースで83%を占めており、材質別に見ると約半数が「銅」となっている。 このような金属盗の増加は、世界的な金属価格の上昇が背景にある。なかでも近年価格の高騰が続く銅(銅スクラップ)は、他の金属と比べ、特に高額で取り引きされている。
太陽光発電所ケーブルの盗難リスクと損失
太陽光発電所の多くは、スクラップとして高単価で売却可能な銅ケーブルを使用しているため、そもそも金属盗の対象になりやすく、無人であり人目につきにくい立地場所にある発電所や地上配管(露出配線)が多い発電所などは、特に盗難リスクが高いと考えられている。 ケーブル盗難が生じた場合、ケーブルそのものだけでなく、付随して「防犯機器や塀の破損」、「PCSや分電盤、遮断器、キュービクルなどの損傷」等が生じる。これら機器の取り換え、ケーブルの張り替え、回復工事などの費用に加え、発電を再開するまでに3カ月以上の復旧期間を要する場合もある。 復旧までの間、当該事業者は売電収入も得られず、損害保険料の大幅値上げや免責範囲の見直しといった、二次的な追加費用も生じることとなる。保険でカバーできないリスクについては、太陽光発電事業者自身で負担するようレンダーから求められ、それにより事業継続が困難になるケースもあるという。これらは太陽光発電の新規案件開発のブレーキとなっている。 太陽光発電協会(JPEA)と再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)が会員を対象にアンケートを行ったところ、313設備・1,494MWの被害事例が報告された。表2は、各電圧区分別に被害状況を集計し、1設備当たりの平均値を算出したものである。個別に見れば、直接的被害額が1.9億円、売電損失が1億円以上という発電所もあったと報告されている。 太陽光発電事業者はケーブル盗難対策として、発電所に警報機等を設置することがあるが、深夜に警報サイレンが鳴り響くことにより、地域住民の安心・安全な生活にも影響が生じている。