「みんなすごくうまい。でも…」アルビレックス新潟、小野裕二はまだ「自分を理解してもらっていない」。無得点の苦悩【コラム】
明治安田J1リーグ第23節、FC東京対アルビレックス新潟が13日に行われ、2-0でホームチームが勝利した。新潟はこれで公式戦3連敗。降格圏との差もわずかと厳しい状況にある。そんなチームの中で、今季から加入した小野裕二もここまで無得点と苦しんでいる。本人も危機感を抱えながら、苦悩を語っている。(取材・文:元川悦子) 【動画】FC東京対アルビレックス新潟 ハイライト
●ショッキングな敗戦から立ち直りたかったが… 松橋力蔵監督体制2年目の2023年に6シーズンぶりのJ1復帰を果たし、18チーム中10位という好成績を残したアルビレックス新潟。最高峰リーグ2年目の今季は「てっぺんを取る」と指揮官も宣言。高度なボール支配力をベースに連動性・流動性のある攻めで勝ち切るスタイルをより突き詰めようと、精力的なトライを続けてきた。 序盤は白星先行のスタートだったが、新井直人のサンフレッチェ広島移籍やケガ人の問題などが響き、5月に入ってリーグ6試合中1勝1分4敗と勝てなくなった。それでも6月は無敗。立て直しに成功したかと思われたが、7月6日のサガン鳥栖戦で3-4と派手な敗戦。続く10日の天皇杯3回戦でJ2トップを走るV・ファーレン長崎に1-6というショッキングな大敗を喫し、チーム全体に緊張感が走った。 となれば、3連戦ラストとなる13日のFC東京戦は是が非でも白星がほしいところ。この試合直前に松木玖生の海外移籍が発表され、FC東京関係者・サポーターが「玖生を白星で送り出そう」と大いに士気を高めたが、新潟としてはお付き合いするわけにはいかない。東京・国立競技場に集結した1万3000人ものアルビサポーターのためにも、結果が強く求められた。 ところが、彼らは開始早々にあっさりと失点してしまう。右サイドバック(SB)藤原奏哉が高い位置を取った背後を相手に突かれ、ドリブル突破力に秀でた遠藤渓太に持ち込まれてゴールを決められるという手痛い失点を喫したのだ。 「最初の失点は非常に軽く、ノーガードでやられてしまった。もっと強度の高い守備ができないとダメだなと感じました」と指揮官は横浜F・マリノスユース時代の教え子の恩返し弾に複雑な感情を覚えた様子だった。 ●小野裕二の現状は不完全燃焼 それはベンチから見ていたマリノスユースの先輩・小野裕二も同じ。「彼(遠藤渓太)も海外へ行って大変な思いをしたと思うし、今、東京でこうやって同じピッチで試合できるのはすごくいいこと。お互いにいい状態で試合できるようにしていきたい」と自らの奮起を誓っていた。 ご存じの通り、小野は今季から新潟へ赴き、ユース時代の恩師・松橋監督と15年ぶりにタッグを組んでいる。だが、ここまではJ1・9試合無得点。不完全燃焼感の強い状況になってしまっている。 鳥栖に在籍した昨季は28試合出場9ゴールというキャリアハイの数字を残しており、新天地では同等以上の活躍が期待されていたはず。本人もケガに見舞われたとはいえ、大いに危機感を強めているに違いない。 新潟にしてみれば、その小野が出てくる前に同点、逆転に持っていきたかった。しかし、前半はチャンスらしいチャンスを作れずに0-1で折り返すことになった。 迎えた後半。彼らは一気にギアを上げ、次々とチャンスを作る。最たるものが50分の決定機。長谷川元希からラストパスを受けた谷口海斗がシュートを放つが、惜しくも枠の外に飛んでしまう。その後も長倉幹樹や長谷川がいい形でフィニッシュに持ち込んだが、どうしてもゴールをこじ開けられない。 松橋監督はラスト15分というところで、満を持して小野と松田詠太郎というマリノス時代の教え子をダブル投入。流れを引き寄せようとするが、逆に一発のカウンターから野澤零温に2点目を食らってしまう。 これがダメ押し点となり、新潟は0-2で敗戦。無得点という悔しい結果に終わり、松木に華を持たせる格好になってしまった。 ●「今は一番にメンタル的なダメージが大きいのかなと」 順位は暫定14位のままだが、気づいてみれば降格圏の18位・京都サンガとは4差。J1残留争いに巻き込まれつつある。 「公式戦3連敗ということで、今は一番にメンタル的なダメージが大きいのかなと思います。ただ、次の試合はすぐ来ますし、いつまでも気にしているわけにはいかない。しっかり自分たちの立ち位置や弱さを受け入れて、前に進んでいくことが大事」と31歳のベテランになった小野は切り替えの大切さ強調。そのうえで「決めきれる集団」に飛躍していくことの重要性を説いていた。 「新潟っていうチームはパスがつながるし、みんなすごくうまい。でも『相手の急所を狙う』ことがもっともっと必要かなと。相手の脅威になるようなパスやドリブル、シュートがあってこそ、ポゼッションが生きてくる。そこをもっともっとチームに植え付けられるように仕向けていきたいですね。 やっぱりサッカーは結局、点取らないと勝てないから。少し強引にコースを切られてもボールの質でそこを通すとか、タイミングを1個外して出すとか、そういうところだと思います」 ●「サガン鳥栖であれだけ点を取れたのは…」 マリノスを皮切りに、スタンダール・リエージュ、シント=トロイデン、鳥栖、ガンバ大阪とさまざまな環境を渡り歩いてきたプロ14年目のベテランは神妙な面持ちで言う。“刺し切る力”という部分は松橋監督も課題として挙げていた部分である。 「本当にこれは決めてほしい、決めなくてはいけない部分がいくつかあった」と指揮官も苦渋の表情を浮かべたが、絶大な信頼を寄せる小野にはそこを担ってほしいと強く願っているはずだ。 昨季在籍した伊藤涼太郎(シント=トロイデン)、三戸舜介(スパルタ・ロッテルダム)らフィニッシャーが続々とチームを去った今、最大の得点源は今季7点の谷口という状況だが、それだけでは足りないのも事実。小野がフル稼働できる状態にコンディションを引き上げ、ここ一番で点を取ってくれるようになれば、新潟も松橋監督ももっともっと楽になるだろう。 「昨年、鳥栖であれだけ点を取れたのは、ゴール前に入っていく回数が多かったし、味方が自分の特徴をしっかり理解してくれた部分が大きかった。でも新潟というチームでは完璧に自分を理解してもらっていないと思う。もっと試合に出て、お互いに理解し合うことでつかんでいけるものがあると思います。あと1試合で中断に入りますし、まずは自分のフィットネスを引き上げ、戦術的な部分の理解を深めていかないといけないですね」 自らに言い聞かせるようにこう語った小野。新たな得点源に関してはクラブ側も夏場に何らかの補強は考えるだろうが、指揮官のサッカー観や哲学をよく分かっているベテランFWの復調はやはり必要不可欠と言っていい。 「口で語るのは簡単ですけど、とにかくピッチでしっかりやるってことが大事。練習からしっかり周りに意思を伝えていきたいですし、90分間折れないメンタルで戦い抜くことが大事。僕を含めて、1人1人が責任感を持ってプレーで表現していくことをよりやっていこうと思います」 こう語気を強める小野裕二。彼が新潟のJ1残留請負人になれるのか否か。ここからの後半戦が本当の勝負となる。 (取材・文:元川悦子)
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