無敗で2冠を制した優駿たち 91年のトウカイテイオー 皇帝から帝王へ託された物語
第58回日本ダービー。20頭立ての大外枠ながら、単勝1・6倍と断然の1番人気に支持されたのは無敗で2冠目を狙うトウカイテイオー。18万人を超える観衆は、皇帝から帝王へと託された物語に陶然と酔いしれた。 父は84年に史上初めて無敗で3冠を達成したシンボリルドルフ。その父の初年度産駒は期待にたがわぬ走りを見せつける。新馬戦をノーステッキで4馬身差の快勝を飾ると続くシクラメンS、若駒S、若葉Sと土つかずで勝利を重ね、91年クラシックの主役に。迎えた皐月賞は圧巻だった。大外から進出開始すると余力十分に後続を突き放し、1冠目を奪取した。 そしてダービー。3週間前に左腰筋肉痛で調教を休むアクシデントがあり一抹の不安を抱えて臨んだ本番だったが、終わってみれば横綱相撲だった。偉大なる父が通った蹄跡を踏みしめがら直線半ばで先頭に。世代8311頭の頂点へと悠然と駆け上がった。当時38歳の鞍上・安田隆行はダービー初制覇。「馬を信じて乗りました。レースはすべて考えていた通り。でも僕はゴールに入るまで無我夢中でした。それに比べてテイオーは、本当に普段と一緒でした」と相棒に感謝した。 その後にレース中に骨折していたことが判明し、誰もが確実視していた無敗での父子3冠の夢は断たれた。それからも2度の骨折に見舞われたが、そのたびに不屈の闘志で立ち上がりファンを魅了した。ラストランとなった93年有馬記念は実に1年ぶりの出走で復活V。客席から渦巻いた大歓声の「テイオー」コール。“皇帝二世”ではない。まさしく“帝王”の名にふさわしい競走馬生活だった。